表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/109

31.共同生活

第八棟の入口には、40人ほどが固まっていた。

スーツ風の服を着た教官らしき二人が、奥へ入ろうとする者を制止している。


「そろそろ説明を始めますね」


拡声器越しのような声が響く。

前を歩いていたムイが、ウイに小声で言った。


「タイミングよかったな」


ざわめきが、すっと静まっていく。


「ここは、初齢・赤誠の方々の棟です」


「ご存じの方も多いと思いますが、この棟にはオートマトンのデュナミスによる自動化機構があります。洗濯・乾燥・炊事・清掃は、グレード2仕様で自動化されています」


「ただし物資は最低限です。水と主食以外の食材は、第2週期から各自で調達してください」


「生活部屋は共同生活を前提としたルームシェアです。

これは、デュナトスの遠征・討伐など、夜襲対策環境を想定しています」


「すでにチームを組んでいる方は申し出てください」


「本日中にチームが組めなかった場合、大広間での雑魚寝になります。

その後、監督官の指名でチーム編成を行います。

現時点でチームがない方、または募集している方も、いったん大広間に集合してください」


「以上です。よろしくお願いします」


説明が終わると、人だかりは監督官の一人に先導され、ぞろぞろと大広間へ流れていった。



その中に、見覚えのある派手髪がいる。

大広間に行くなら、まだチームは決まっていない可能性が高い。


間違っていたら恥ずかしいが、呼んでみた。


「メイハーネさん!」


派手髪が振り向く。メイハーネだ。

だが一瞬こちらを見ただけで、すぐ前へ向き直り、きょろきょろと周囲を探し始める。


「知り合い?」


ムイが聞く。


「はい。あの、赤いポニーテールで毛先が紫の方です」


「なるほど。ウイ、お願い」


スコアチェックだろう。


「派手髪……あの方ですね。-105。悪くありません」


「呼んでくる」


ムイは即座に動いた。心強い行動力。

スコアチェックについては、Tier3までいったノアテラが-20と言っていた。

ここでは数値感が妙にインフレしている気もする。


「鳥族っぽいけど、どういう関係?」


チターナが聞いてきた。


「試験のとき目立っていたので声をかけました。顔見知り程度です」


「アテラは、気が強そうなのが好きなんだねえ」


……ノアテラといい、どうしてすぐ“好み”の話になるのか。



「おい、なにすんだって!」


メイハーネが、そこそこ大きな声を上げた。

ムイの強引な手が嫌だったらしい。


「メイハーネさーん」


私がもう一度手を振って呼ぶと、彼女はやっとこちらに気づいた。

メイハーネはムイの手を振りほどき、こちらへ来る。


「アテラくん、来てたんだね」


「はい。しかも同じ色です。さっき引っ張ろうとしたのがムイさんで、今一緒にいます」


「あ、そうなんだ……失礼しました」


「こちらこそ強引でごめん。今、この六人でチームになる予定なんだ」


メイハーネの『失礼しました』では主従リンクは発動しない。

カンニングを指摘するくらい誠実だから、これは本音だろう。


つまり『失礼』は、謝罪の言葉ではない、ということか。

そしてムイの「ごめん」は“謝意なき謝罪”。対照的だ。


「メイハーネさん……? 私はチターナ・ドルフォナ。その髪、綺麗だね」


「チターナ、素敵でいい名前。アタシはメイハーネ・トトーだよ」


急に褒め合いが始まった。

マウントなのか、単に波長が合ったのか判断がつかない。


「自己紹介はあとでゆっくり。先にチーム登録しよう」


ムイがそう言うと、監督官を呼びに走る。


「でも、よくこんな短時間で六人集まったね」


メイハーネは微笑む。

チーム入りが嫌ではなさそうで、ひとまず安心した。


「アテラのおかげかな。アテラがいなかったら怪しすぎて、私抜けてたと思う」


チターナの言葉に、リーネとメイハーネが頷く。

子どもの外見は武器だな……


「それよりムイさんの行動力がすごくて。

ぼく達きっと一番最初にチームができたよ。」


私がそう言った瞬間、頭に感触がする……


「よしよし」


チターナが撫でていた。

前言撤回。子どもの外見は不利である。


「初齢赤誠の副監督官、ヘンヌです。チーム登録は一度行うとキャンセルできません。

それでもよろしいですか。よろしければ、こちらの認証板に手を当ててください」


私達は順番に手を当て、登録が完了する。


その後、チームの部屋へ案内された。


共同生活部屋は一部屋かと思ったが、男女で一部屋ずつに分かれていた。

余裕がない中で最低限の区別をするなら、生物学的な男女で区切る——そういう割り切りなのだろう。


女性三人は自然に女部屋へ入っていく。

ムイがそれを見て言った。


「男3、女3。部屋割りは文句なしだな」


「アテラ、ちょいちょい」


女部屋からチターナが手招きする。

私は男。私は男……。


「やだ」


「恥ずかしがらずに。こっちこっち」


チターナ以外の二人も、こちらを見ている。

何か勘づかれたのか。


呼ばれるままに女部屋へ入ると、いきなり核心を突かれた。


「アテラ、本当は女の子でしょ?」


……なぜ、分かった。


「前にポリコレチェックで性別40だったって、メイハーネが言ってた」


「そう。"心の性別”はそんな簡単に変わるものじゃない。

男部屋が嫌なんじゃないかって」


この二人を煙に巻くのは難しい。

嘘を見破るデュナミスの存在も想定する。下手な言い訳は危険だ。


私は、正面から言い切った。


「ぼくはハンディキャップに頼らず生きます。心が女でも、支障が出たら自分の力で乗り越えます」


「アテラ、よしよし」


またチターナに頭を撫でられる。


「アテラくんの考え、尊重するよ」


メイハーネは、そう言ってくれた。


「……メイハーネ、ぼくのことはアテラでいいです」


「じゃあアタシのことはメイでいいよ」


メイは、チターナたちとは違って、私を“子ども扱いだけで押し切らない”感じがある。

それが少し嬉しかった。


「アテラ、男だらけで辛くなったらいつでもおいで」


「うん」


「おばけ怖かったら、一緒に寝てあげる」


「……え」


その一言が、あのとき胸に刺さった感覚を呼び起こした。


「おばけは怖くありません」


チターナはにこにこしている。

私はそのまま女部屋を出た。チターナはノアテラに似た匂いがする。注意が必要だ。


男部屋に戻ると、ムイとウイが笑顔で話し合っていた。仲いいなぁこの2人。


「そんでさ——あ、……やあ、アテラ。やっぱ俺たち男の側だよな」


「性別のバランスは権利のバランスに繋がりますからね」


うわ、小学生みたいなこといってる。

男って、こんなものなの……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ