31.共同生活
第八棟の入口には、40人ほどが固まっていた。
スーツ風の服を着た教官らしき二人が、奥へ入ろうとする者を制止している。
「そろそろ説明を始めますね」
拡声器越しのような声が響く。
前を歩いていたムイが、ウイに小声で言った。
「タイミングよかったな」
ざわめきが、すっと静まっていく。
「ここは、初齢・赤誠の方々の棟です」
「ご存じの方も多いと思いますが、この棟にはオートマトンのデュナミスによる自動化機構があります。洗濯・乾燥・炊事・清掃は、グレード2仕様で自動化されています」
「ただし物資は最低限です。水と主食以外の食材は、第2週期から各自で調達してください」
「生活部屋は共同生活を前提としたルームシェアです。
これは、デュナトスの遠征・討伐など、夜襲対策環境を想定しています」
「すでにチームを組んでいる方は申し出てください」
「本日中にチームが組めなかった場合、大広間での雑魚寝になります。
その後、監督官の指名でチーム編成を行います。
現時点でチームがない方、または募集している方も、いったん大広間に集合してください」
「以上です。よろしくお願いします」
説明が終わると、人だかりは監督官の一人に先導され、ぞろぞろと大広間へ流れていった。
その中に、見覚えのある派手髪がいる。
大広間に行くなら、まだチームは決まっていない可能性が高い。
間違っていたら恥ずかしいが、呼んでみた。
「メイハーネさん!」
派手髪が振り向く。メイハーネだ。
だが一瞬こちらを見ただけで、すぐ前へ向き直り、きょろきょろと周囲を探し始める。
「知り合い?」
ムイが聞く。
「はい。あの、赤いポニーテールで毛先が紫の方です」
「なるほど。ウイ、お願い」
スコアチェックだろう。
「派手髪……あの方ですね。-105。悪くありません」
「呼んでくる」
ムイは即座に動いた。心強い行動力。
スコアチェックについては、Tier3までいったノアテラが-20と言っていた。
ここでは数値感が妙にインフレしている気もする。
「鳥族っぽいけど、どういう関係?」
チターナが聞いてきた。
「試験のとき目立っていたので声をかけました。顔見知り程度です」
「アテラは、気が強そうなのが好きなんだねえ」
……ノアテラといい、どうしてすぐ“好み”の話になるのか。
「おい、なにすんだって!」
メイハーネが、そこそこ大きな声を上げた。
ムイの強引な手が嫌だったらしい。
「メイハーネさーん」
私がもう一度手を振って呼ぶと、彼女はやっとこちらに気づいた。
メイハーネはムイの手を振りほどき、こちらへ来る。
「アテラくん、来てたんだね」
「はい。しかも同じ色です。さっき引っ張ろうとしたのがムイさんで、今一緒にいます」
「あ、そうなんだ……失礼しました」
「こちらこそ強引でごめん。今、この六人でチームになる予定なんだ」
メイハーネの『失礼しました』では主従リンクは発動しない。
カンニングを指摘するくらい誠実だから、これは本音だろう。
つまり『失礼』は、謝罪の言葉ではない、ということか。
そしてムイの「ごめん」は“謝意なき謝罪”。対照的だ。
「メイハーネさん……? 私はチターナ・ドルフォナ。その髪、綺麗だね」
「チターナ、素敵でいい名前。アタシはメイハーネ・トトーだよ」
急に褒め合いが始まった。
マウントなのか、単に波長が合ったのか判断がつかない。
「自己紹介はあとでゆっくり。先にチーム登録しよう」
ムイがそう言うと、監督官を呼びに走る。
「でも、よくこんな短時間で六人集まったね」
メイハーネは微笑む。
チーム入りが嫌ではなさそうで、ひとまず安心した。
「アテラのおかげかな。アテラがいなかったら怪しすぎて、私抜けてたと思う」
チターナの言葉に、リーネとメイハーネが頷く。
子どもの外見は武器だな……
「それよりムイさんの行動力がすごくて。
ぼく達きっと一番最初にチームができたよ。」
私がそう言った瞬間、頭に感触がする……
「よしよし」
チターナが撫でていた。
前言撤回。子どもの外見は不利である。
「初齢赤誠の副監督官、ヘンヌです。チーム登録は一度行うとキャンセルできません。
それでもよろしいですか。よろしければ、こちらの認証板に手を当ててください」
私達は順番に手を当て、登録が完了する。
その後、チームの部屋へ案内された。
共同生活部屋は一部屋かと思ったが、男女で一部屋ずつに分かれていた。
余裕がない中で最低限の区別をするなら、生物学的な男女で区切る——そういう割り切りなのだろう。
女性三人は自然に女部屋へ入っていく。
ムイがそれを見て言った。
「男3、女3。部屋割りは文句なしだな」
「アテラ、ちょいちょい」
女部屋からチターナが手招きする。
私は男。私は男……。
「やだ」
「恥ずかしがらずに。こっちこっち」
チターナ以外の二人も、こちらを見ている。
何か勘づかれたのか。
呼ばれるままに女部屋へ入ると、いきなり核心を突かれた。
「アテラ、本当は女の子でしょ?」
……なぜ、分かった。
「前にポリコレチェックで性別40だったって、メイハーネが言ってた」
「そう。"心の性別”はそんな簡単に変わるものじゃない。
男部屋が嫌なんじゃないかって」
この二人を煙に巻くのは難しい。
嘘を見破るデュナミスの存在も想定する。下手な言い訳は危険だ。
私は、正面から言い切った。
「ぼくはハンディキャップに頼らず生きます。心が女でも、支障が出たら自分の力で乗り越えます」
「アテラ、よしよし」
またチターナに頭を撫でられる。
「アテラくんの考え、尊重するよ」
メイハーネは、そう言ってくれた。
「……メイハーネ、ぼくのことはアテラでいいです」
「じゃあアタシのことはメイでいいよ」
メイは、チターナたちとは違って、私を“子ども扱いだけで押し切らない”感じがある。
それが少し嬉しかった。
「アテラ、男だらけで辛くなったらいつでもおいで」
「うん」
「おばけ怖かったら、一緒に寝てあげる」
「……え」
その一言が、あのとき胸に刺さった感覚を呼び起こした。
「おばけは怖くありません」
チターナはにこにこしている。
私はそのまま女部屋を出た。チターナはノアテラに似た匂いがする。注意が必要だ。
男部屋に戻ると、ムイとウイが笑顔で話し合っていた。仲いいなぁこの2人。
「そんでさ——あ、……やあ、アテラ。やっぱ俺たち男の側だよな」
「性別のバランスは権利のバランスに繋がりますからね」
うわ、小学生みたいなこといってる。
男って、こんなものなの……。




