30.チーム結成
――とりあえず、挨拶をしておこう。
「どうも。アッティラ・ラシュターナ、アテラといいます」
「どうも。ウィグヌー・アンズナイア。ウイといいます」
淡々とした返答だ。
「その、目を閉じているのは観測属のデュナミスですか?」
「そう。ポリコレチェックが禁止されてるから、強硬手段」
「デュナミススコアが低い人を集めているのですか?」
「そ……あ、-127、いた」
……相性とか、考えないのだろうか。
このやり方で本当にチームが組めるのか、不安になる。
「ちょ、ちょっと、そんな引っ張らないでー!」
瑠璃色の髪を片側で結った女性が、半ば引きずられるようにやって来た。
「こんにちは」
「え、あ……こんにちは」
目が合ったので挨拶すると、少し慌てながらも返してくれる。
「アッティラ・ラシュターナ、アテラといいます」
「えっと……チターナ・ドルフォナです」
「ウィグヌー・アンズナイアです」
「俺はムイ・マダラオ。無理に連れてきてごめん。ちょっと待ってて」
そう言い残し、ムイは再び動き出す。
「-127の方がいらっしゃいます。黒髪、褐色、軟属、サイドテール。あちらですね」
「よし、行ってくらあ」
銀髪のムイは相変わらず勢いがいい。
「ねえねえ、何やってるの?」
チターナがこちらを見て尋ねる。
ウイは答えない。……私の役目なのか。
「私も連れてこられた側ですが、たぶんチーム結成のためだと思います。基準はデュナミス数値が低い方、ですね」
「ふむふむ。ところでアテラくん、いくつなの?」
「6歳です」
「えっ。そんな小さくても試験受けられるんだ。筆記、大変だったでしょ?」
「はい。毎日勉強漬けでした」
「すごく頭いいんだね」
「いえ、そんな……」
チターナが頭を撫でようとする。
私は一歩引いた。
「……あれ?」
首を傾げるチターナの背後から、
「あの……やめて……いたたた……」
今度は黒髪サイドテールの女性が引きずられてきた。
「連れてきたよー、ごめんねー」
「こんにちは。ぼくはアッティラ・ラシュターナ、アテラといいます」
「い、いたた……ええと……?」
状況を理解できていない様子だ。
「私はチターナ・ドルフォナ。あなたは?」
「リ、リーネ・ハグーバークです」
「ウィグヌー・アンズナイアです」
「俺はムイ・マダラオ。ほんと、ごめん」
……ウイの自己紹介は毎回オウム返しだ。癖なのか遊んでいるのか。
それと、ムイの「ごめん」は形式的すぎる。悪いと思わなければ主従リンク作動しないか。
「-100以下で独りは、もういなさそうですね。層や色違いを除けば、これで揃ったでしょう」
「そう。集めた理由はチーム結成だ。プログラムを好成績で抜けるなら、まずスコアを見るのが一番合理的だと思った」
……短絡的で、強引。
受け入れられるはずがない。
「いいよ。この子と一緒なら」
チターナが、後ろから私に腕を回した。
……短絡的なやつがいた。
「助かる。じゃあ自己紹介は後で。まず棟に行こう。ここ、誰に聞かれてるかわからない」
それは確かにそうだ。
……納得してしまうのが悔しい。
「リーネさん、こっち握ってもらえる?」
チターナが私の左手をリーネの右手へ持っていく。
私の右手は、チターナが握った。
……保護者ですか。
「大丈夫です。ぼく、一人で来てますので」
「だめ。連れ去られちゃうよ」
反論を諦め、そのまま歩き出す。
前にウイとムイ、後ろにリーネ、私、チターナ。
棟の間には公園や生垣が点在しており、のどかだが整然とはしていない。配置も無作為な印象だ。
「アッティラさん、何歳なんですか?」
「アテラでいいですよ。6歳です」
「なんだか……かっこいいですね」
かっこいい?
初めて言われた。
「リーネさん、アテラは“かわいい”だよ」
「でも、6歳でこの試験を……」
「ぼくは“かっこいい”がいいです」
セルフブランディングは大事だ。
舐められないためにも。
「かわいい」
チターナが顔を寄せてくる。そして微笑みかけてきた。
……この人には何を言っても無駄そうだ。
「6歳で筆記突破か。すごいな」
前列のムイが言う。
「この中で一番優秀だったりして」
「年齢補正が大きいので、実はそこまで高得点では」
「皆さん、何点だったんですか?」
金髪のウイが尋ねる。
「私は400点くらい」
「俺は356点。ウイは459点」
「ぼくは463点です」
「やっぱり優秀じゃん。リーネさんは?」
「……400点後半です」
「ぼかす意味ある?」
チターナが即座に突っ込む。意外と容赦がない。
きっとリーネは高得点で言いづらいのだろう。
「……497点です」
「おお……」
497点。
デュナミス科目の難問をほぼ完答したということだ。
生活力も相当高いはず。
金髪のウイは寡黙で現実的。
銀髪のムイは強引だが、空気は読めそう。
チターナは我が強い。
……チターナを除けば、悪くないチームかもしれない。
私たち五人は当たり障りのない会話を続けながら、
赤い盾マークの掲げられた第八棟へと入っていった。




