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29.デュナメイオン

「恐縮ですが、私語はお慎みください。

周囲の方が聞き取りやすい環境づくりにご協力をお願いします」


子供にはあまり通用しなさそうな、

丁寧すぎる仕切りだが、それでも会場はそれなりに静まった。


「ありがとうございます。それでは、第144期デューナメース認定教育システム――デュナメイオンのプログラム概要を説明します」


そう言うと、正面上方にディスプレイが出現した。

映像投影系のデュナミスだろう。


「本プログラムは、3カ星にわたって実施されます」


「参加者は総勢1755名。

初齢(5〜28歳)、中齢(29〜54歳)、終齢(55歳以上)の三層に分けられ、さらに色で識別される5つのチーム――赤誠、青月、黄昏、黒風、白刃に割り振られています」


「各自の色は、退出時に頭上へ表示されます。

その色に従い、該当する棟へ帰還してください」


……きな臭い。

まるで戦争でも始まるかのような分け方だ。


「この認定教育システムでは、以下の三つの行為が禁忌とされています」


「一、殺害。二、教官への背信。三、自色チームへの裏切り」


「これらが認められた場合、デュナメイオンからの即時追放、およびポリコレスコア・マイナス200が付与されます」


「3カ星の間に、概ね5周期×6回のプログラムを実施します。

参加者は、そのルールに従って行動してください」


「成績優秀なチームには、認定企業での高待遇、現金報酬、デュナトスTier評定が与えられます」


「各色・各層はおよそ百名規模となります。

その中で、3〜6名の小チームを編成してください」


「本日から1日間は戦闘行為は禁止です。

明日の正午までに、チーム申請を完了させてください」


「申請は自色の棟で行います。

配置されているスタッフ二名に申し出てください」


「衣食住はすべて自色の棟内で完結します。

他色の棟へ侵入した場合、攻撃を受けます。

場合によってはスタッフも応戦しますのでご注意ください」


「最後に。

本施設では、ポリコレチェックおよびデュナミスコピーが、特定条件下でのみ発動するよう制限されています。これは、皆さま自身に将来のデュナミスを吟味していただくための措置です」


「質疑応答は自色のスタッフへ。

また、本制度では平和的行動が推奨されます。3カ星間、健闘を祈ります」


大枠は理解できた。

これが、デュナミスを“育てる”ための環境なのだろう。


「退出していただいて結構です。

 聞き逃された方のため、もう一度説明を繰り返します──」



人々がぞろぞろと退出していく。

早めに動き、早めにチームを見定めたい。


「ありがとうございました。本当に助かりました」


私はルレウに降ろしてもらおうと、お腹の前の手を振りほどこうとする。


「大丈夫。外に出るまでは危ないから、このまま行こう」


力が強い。びくともしない。

……戦闘になったら、私は一瞬で制圧されるな。


「ねえアテラ、もし同じ色だったらさ、私とチーム組まない?」


歩きながら、ルレウが言う。


「嬉しいですが、ぼくみたいな可憐な子供に早まらないでください」


「なにそれ。ふふっ」


正体も分からない相手と勢いで組むのは危険だ。

そして、咄嗟に出た「ぼく」。

この外見には、案外合っているかもしれない。


建屋の出口付近で人が滞留している。

早くもチーム勧誘が始まっているようだ。


「……私、結構騙されやすいんだ。特に女の人に」


突然のカミングアウト。

正直、深掘りしたくない。


「そうなんですね。ぼくもよくお姉ちゃんに騙されました。

ご飯の早食いレースで、一皿隠されて」


ごめん無実のノアテラ。今は聞き役を回避したい。


「そういう意味じゃなくて……アテラって、純粋そうだよね」


普通なら6歳は純粋だよ。普通ならね。


「ぼくは悪い子です。純粋に悪い子」


「純粋に変な子。それがアテラ」


「ルレウのほうが変です」


「アテラはもっともっと変な子。ふふ」


変人ムーブで時間を稼ぐ。



ようやく棟の外へ出た。

ルレウの頭上には、黄色い太陽のようなマーク。


「アテラは赤? 私は?」


「……黄色ですね」


「そっか。残念。心を許せそうだったのに」


「心は許してもいいじゃないですか。平和が推奨されてますし」


「ほんと?」


「……たぶん」


軽率だったかもしれない。


「じゃあ、また会ったら抱っこしてあげるね」


「抱っこは結構です。それでは」


「するから覚悟して。じゃーね」



……この姿、女の人にやたら構われる気がする。

今さらだけど、女の子の姿のほうが正解だったのか?


「そこの少年、こっちこっち」


言ったそばからこれだ。

……って男の声?


振り向くと、銀髪の中性的な男性が手を振っていた。

頭上には赤い盾のマーク。


「そうそう、こっち。こんにちは」


差し出された手を握る。

『抱っこ』や『なでなで』でないことに、心から安堵する。


「こんにちは。ぼくはアッティラ・ラシュターナ。アテラと呼んでください」


「ムイ・マダラオ。こっちだ」


ムイは私の手を引き、先へ進む。


生垣を曲がると、もう一人の男がいた。

金髪短髪、整った顔立ち。


「-140を探しています。青髪、魚族、三つ編み、茶色の服、ブーツ。連れてきてください」


「了解。この子、少し見てて」


金髪の男は目を閉じ、四番棟の方角へ意識を向ける。

ムイはそのまま走り去った。


「-220君。どうか、そのまま動かずにいてください」


……私のポリコレスコア?


つまり――

見えているのか。

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