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26.就職先

翌朝、目を覚ますと部屋には私一人だった。


おもむろにダイニングへ行くと、ノアテラとメイラ先生がそのまま寝落ちしている。

テーブルの上には、昨夜の食事が食い散らかったままだ。


私は残り物をつまみ食いしながら、静かに片付けを始めた。


……少し、ほっとした。


いつもはノアテラと一緒に寝ていて、抱き合ったまま眠ることだってある。

もし今日もそうなっていたら、と思うだけで鼓動が早くなり、少し怖くなっていた。


……私から言おう。


合宿に行くのだから、一人で寝る練習をする、と。


そもそも『おばけ怖い』という私の演技で、一緒に寝るようになったのだ。

私が切り出すのも、終わらせる理由としても自然だ。


服のかすれる感じが聞こえた。

私が食器を重ねる音で、ノアテラが目を覚ましたようだ。


「ごめん、起こしちゃった。お姉ちゃん、寝てていいからね」


そう言いながら、私は片付けを続ける。


「アテラ、えらいね」


ノアテラはそう言って起き上がり、片付けを手伝ってくれた。


「お姉ちゃん」


「なーに?」


「試験の結果がよかったら、認定企業の合宿に行くから、一人で寝る練習する」


「そうね」


「試験の結果が悪かったら、まだ一緒に寝ていい?」


「うん、いいよ」


これが、今の私にできる精一杯の誤魔化しだった。

本当は、ノアテラに染まってしまうのが怖いのだけれど、

それを正直に言ったら、もっと怖いことになる。



昼前、試験結果と内々定通知書兼・希望票が届いた。


こんなに早いということは、あらかじめ合格ラインが決まっているのだろう。

結果は500点中463点。


メイラ先生は、いい意味で驚いていた。

恐る恐る見たノアテラの顔は、心から喜んでいるようだった。


試験結果と年齢偏差値を考えると、

「どの認定企業でも書類は通るだろう」とメイラ先生は言った。


業界は全部で17ある。


通信、物流、小売、広告、製造、資源、化学、建設、医療、開拓、農林、漁業、観光、金融、商社、官吏、警察。


これらの業界ごとに最大勢力が『認定企業』とされ、

複数業界を跨ぐ企業も存在する。


メイラ先生は

「業界で選べ。企業の中身は調べるな。闇を知る」

と言って詳細を教えてくれなかった。


けれど私は、事前に本で調べていた。


デューナメース理事会の背後には、必ず認定企業がある。

国家という存在は、すでに認定企業に侵食され、依存している。


――つまり。


認定企業の力=ポリコレ世界を支配する力。


私は認定企業に入り、その上層へ行き、

ポリコレを作り出した元凶の系譜を知りたい。


そのためには、最も勢力を持つ企業を選ぶ必要がある。


候補は三つ。


1.小売最大手。製造・化学・建設を抱え、消費市場を制圧する

  『ヴィスパダト』


2.金融最大手。商社・開拓・物流を握り、価格操作で富を生む

  『アーマン・バラア』


3.通信最大手。広告・官吏・警察・農林・資源を抱え、

  行政とライフラインを支配する

  『イデア』


このおぞましい寡占は、進行する一方だ。

企業選びを誤れば、上層入りは永久に叶わないだろう。


「アテラー、昼ごはんできたよ」


ノアテラには、何でもしてもらってばかりだ。

今夜は私も料理をしよう。


希望票を記入し、メイラ先生に渡す。


「先生、これでよいでしょうか」


先程の候補を3、2、1の順で書いた紙を差し出す。


「……明日出しておく……え、お前これ……」


メイラ先生の顔が、わずかに青ざめた。


「どうかしましたか、先生」


わざとらしく尋ねる。


「私も見たい。アテラの希望先」


ノアテラが隣に来る。


「……この三社はな……

 “やめた方がいい認定企業ベスト3”だ……」


「ひぃ」


メイラ先生のホラーじみた言い方に、ノアテラが反応する。


「そうなのですか? なぜでしょうか」


「悪いこと言わないから、変えない?」


「変えません。理由を言ってください」


「……まあ、いいか」


いつもの“面倒くさい病”だろう。

リスクは承知している。


「メイラ先生、どういうことですか」


ノアテラが問い詰める。


「簡単に言うと、

 蹴落とし合い、潰し合いの人格破綻イケイケ企業だ。

 ノアならわかるだろ」


ノアテラの表情が曇る。


――その程度を越えられずに、何が改革者だ。


「メンタルには自信があります」


「だろうな。なら、いいや」


メイラ先生はあっさり引いた。


「だめよ、アテラ。ちゃんと考えた?」


ノアテラの方は食い下がってくる。


「考えた」


「考えてない。もう一日――」


「いい。ここがいい」


「理由を教えて」


……ノアテラめ、それが老婆心というんだおばあちゃんめ。

あ、メイラ先生の口の悪さがうつった。


「私は一番になりたい。

 一番になるには、一番の企業に入る必要がある。

 お姉ちゃんは、応援してくれないの?」


「……」


ノアテラの目が潤む。

これ以上、感情の矢を向けないでほしい。


「手始めに、メイラ先生を仕事で下して、

 この家の一番になる。

 メイラ先生は『ヴィスパダト』の下請け企業だから」


「ほお……ずいぶんとお利口さんじゃないか」


心を強くだ。

メイラヒールを一発もらっておいた。


「ノア。

 我らが自慢の子アテラの、勇気ある門出を支えてやれ」


そう言って、メイラ先生はノアテラが別室へ向かう背中を見送った。


……イケイケ企業が、そこまで問題なのか。


これは私が決めたこと。

前途多難だろうが受けてたつ。

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