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25.危険な関係

ゆっくり横目でメイラ先生を見る。


べろべろに酔って、何か独り言を言っている。

たぶん、こちらの状況には気づいていない。


「……お姉ちゃん?」


念のため確認したい。

ノアテラは本当に恋々コネクトをしたのか。


「アテラ、ごめんね。

 変身のデュナミスが解けたら切れるから、気にしないでね」


――それはつまり、

本当に『好き』だということになる。


でもだって私は、女で、赤ちゃんで、

男の子の姿も仮で――。


『かわいい』とか『好き』とか、

それはどういう種類の好きなのか。

家族の好きなのか、それとも……。


……普通、そんな。


……いや、待て。

『普通』って、なんだ。


ここはポリコレの世界だ。

50年も前から制度がある。種族も多様だ。


年齢も性別も、

本当は取るに足らない――

そんな世界なのかもしれない。


どうしよう。

胸が苦しい。


告白されたことがないわけじゃない。

でも、ノアテラの愛情は本物で、そして大人。

私は…大人になった……つもりだった。


「お姉ちゃん……私、そういう……」


言いかけた言葉を、ノアテラが塞いだ。


「言わないで。ごめんね。

 今のままで……大丈夫だから」


そう言いながら、抱擁が強くなる。


私は、こういう関係のイメージを知らない。

知らないから、余計に怖い。


考えを否定するみたいに、心臓だけが高鳴る。


好きな男子からの告白なら、

ドラマを見るみたいに受け入れられた――気がする。


……簡単に?


違う。これは簡単じゃない。


でも、私の胸の高鳴りは何だ。

受け入れたい、という気持ちなのか?


くらくらして、思考がまとまらない。


このまま、くっついたままは危ない。

私の世界観の中で、ノアテラは『優しい母』だった。


そういう意味で、好きだった。

それ以外のイメージなんて、

本気の好きだなんて、今まで思ってもなかったのに──




「おーい、アテラぁ。寝てるのかー?」


空気の読めないメイラ先生の声で、抱擁が解けた。


「酔っ払っちゃってぇ。

 アテラがかわいくて、わたしが離さないようにしてましたぁ」


ノアテラは、何も考えていないような笑顔と言葉で取り繕う。


けれど、離れる直前の一瞬、

ノアテラは泣いていないのに泣いているような顔をしていた。


その切り替えに、私は大人っぽさを感じてしまった。


私が暗い顔をすれば、何か悟られそうだ。

だから私は、メイラ先生に一矢いれておく。


「メイラ先生。

 ペーパーテスト、九割は超えてます。頭脳は先生に近づいています。

 デュナミスもスコア上は私のほうが上。

 先生にはいずれ、ポリコレバトルを挑みますから」


「おう。やったろーじゃねぇの。

 負けたらお前、奴隷な?」


「……は、はい……」


メイラ先生、本当に口が悪い。

でも今回は助かりました。この恩は忘れません。




私は、LGBTQの「Q」を今まで理解できていなかった。


本来は男が好きな女でも、

女が好きな女に愛されてしまったとき、

"Q"になることだってあるのだろう。


愛は強さと同時に、予測不能な恐ろしさも内包する。

これは、その一例だ。


文化や慣習で守られていた何かが、

こうやって砕かれるのかもしれない。


――『最もつらい時こそ、

自ら自分だけを虫けら同然に扱えたら、周囲にとって最高に心強い。

だからサイコパスの価値観も理解してみて』


母が凶悪犯罪のドキュメンタリーを見ながら、そう言っていた。


よくそんなブッ飛んだ論理を言えるなと思ったが、

それ以来、私は辛いとき、

自分をゲームのモブのように扱って客観視する癖がついた。


だから、今もできる。


『今、LGBTQの中に入ってはいけない。

 外から、LGBTQをちゃんと見るんだ』


LGBTQと並んで他があって……

LGBTQだけではLGBTQを救えない現実があって……

そう自分に強く暗示をかける。



「お姉ちゃんも、デュナトスTier3なんてすぐ行って追い抜くからね」


少しだけ、私の声は震えた。


「いいよ。アテラが私を超えたら、お祝いだね」


ノアテラは、いつもの笑顔に戻っていた。

そうだ。いつも通りでいい。


その後は、スキンシップがなくなり、

夜遅くまで、たくさん話した。



メイラ先生の仕事の話。


メイラ先生は回帰属をコアにして、建物修復を仕事にしているらしい。

さらに四属ものデュナミスが使え、

「フェロー」と呼ばれているのだと、得意げに語った。


次に、仕事と収入の愚痴。


デュナミスは序列で収入が固定されており、

どれだけ貢献しても給料が上がらない――

そんな愚痴を延々聞かされた。


最後に、ギャンブル癖の話。


これはノアテラが切り出したのだが、

メイラ先生は借金持ちだった。


量産パンが10コインで買えるのに、

借金は10億コインに達しているという。


……恐ろしい生き方だ。


(母とは違って)

「メイラ先生、子供じゃん」と罵りながらも、

それでも社会に貢献していることは同じだ。



メイラ先生は自慢と愚痴ばかりだったが、

そんな“社会の自然さ”を知れたことで、

この世界の未来が明るく見えた。

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