23.難関試験
待ちに待った試験の日。
私はノアテラに連れられ、
デューナメース第4支部と呼ばれる施設へ向かった。
ペーパーテストの会場は、
普段は何らかの催しにも使われていそうな巨大なドームだった。
東京ドームを思わせるほど広く、
その中に簡素な机と椅子が大量に並べられている。
受験生は予約カードを提出すると席に案内され、
おそらくデュナミスによる生体認証で本人確認を済ませ、
そのまま着席して開始を待つ流れだった。
同じ空間には、
鳥人間、人魚、ゴリラ、トカゲ人間、蝶人間など、
実にさまざまな人型の存在がいる。
一年半ほど引きこもり同然だった私には、
この光景はかなり刺激的で、
生身で“世界”を感じたのは初めてだった。
私は登録上6歳のため、
席に着くまでノアテラが付き添ってくれたが、
その後は養育者待機エリアへ移動していった。
「アテラ、いつもの感じで。気楽にね」
そう言って離れていくノアテラは、
こちらよりもずっと緊張しているように見えた。
子供の大事な行事は、
親のほうが緊張する――
本当にそうなのかもしれない。
開始時間になると、
アナウンスと同時に、机の上に文字が転写されて説明が行われた。
5科目の順番と制限時間、注意事項。
内容は、中学時代の定期テストを思い出させるものだった。
試験が始まると、
ドーム内には筆記音だけが響き、
皆が黙々と問題を解き進めていく。
あっという間に一科目が終了した。
時間が余ったため、
違反にならない程度に前面周囲を観察する。
……ところどころで、
カンニングと思しき行為が見られた。
太腿に文字が浮かび上がる仕掛けを使う者、
声は出さないが顎の動きで何かを喋っている者、
寝たふりをして薄目で隣を見る者――。
私はそういう行為が嫌いだが、あまりにわかりやすい。
多分、すべて把握されているのだろう。
泳がせて、
「カンニングをした」というステータス込みで評価する。
そんな意図すら感じる。
「おい!それはだめだろう!」
左斜め前の派手髪鳥女がカンニングを注意した。
すぐに監督官達が寄ってくる。
「ちゃんと見てください!
あの人、めちゃくちゃズルしてます!」
彼女の声は大きく、
周囲がざわつき始める。
ほどなく全体アナウンスが入った。
「受験者の皆様。
思わず出る一言も含め、私語は減点対象です。
減点は映像証跡とともに保管され、
後日通知されます。
映像開示の際は一般公開となります。
原則、覆ることはありません。ご注意ください」
……なるほど。
カンニングも映像証跡が残るということか。
そこまでやれば抑止力は高い。
ただ、一般公開という点は、
この世界の肖像権がどうなっているのか少し気になった。
監督官が鳥女をなだめる。
こういうタイプは場を荒らしがちだが、
私は嫌いではなかった。
どんな世界でも、
どんな種族でも、
似たような人間はいるものだ。
その後、二科目を終えて昼休憩となった。
ノアテラと外に出て、
公園のような外の景色の中で弁当を広げる。
「そうか……。
デュナミス以外の科目は大丈夫って言ってたのに、
できなかったなら、かなりの難問だったのかな」
「うん。
メイラ先生が“出る”って言ってたところ、
ことごとく出なかったよ」
私の『いまひとつ』という、感想からの会話だった。
メイラ先生は説明は講師として神がかっているが、
話が脱線しがちで、
予想が外れることが多いのが難点だ。
今回のデュナミス問題は、
資料の少ない現代寄り、
しかも日常生活系の知識が中心だった。
正直、数問は勘に頼らざるを得なかった。
ノアテラが弁当箱を開けていると、
隣を機嫌の悪そうな足音が通り過ぎる。
……あ。
さっきの派手髪の鳥女だ。
「こんにちは」
興味と勢いで声をかけた。
「あ、こんにちは」
彼女は振り返り、
たぶん誰もいないと思って、
視線を下に落として挨拶を返してきた。
……ちょっと屈辱。
「さっきの、素敵でした」
「ん?」
「ズルを一刀両断したところです」
「……ありがとう。
どうしても、ああいうの許せなくて」
率直に褒めると、
彼女は少しだけ照れた様子を見せた。
「どうも。
こちら、息子のアテラです。
私はノアテラといいます」
ノアテラが自己紹介を挟む。
ただ褒めたかっただけなのに、
話が広がってしまった。
「はじめまして。
アタシはメイハーネ。
まだ小さいのに、優秀なのですね」
メイハーネは、
赤と橙が混じる鮮やかな髪をポニーテールにしていた。
まるでトサカのようなハイポニー。
耳元に垂れる毛先だけが紫で、
全体的にかなり派手だ。
顔立ちは人寄りなので、
おそらく四半鳥。
鳥らしさは脚や羽毛、翼に表れている。
「では、午後の試験がありますので……勉強しないと」
見た目は完全にヤンキーだが、
中身は至って真面目そうだった。
……こういう人、前世にもいたな。
私はノアテラと一緒に、
メイハーネへ小さく手を振った。
「……アテラは、ああいう子がいいの?」
「大勢の前で正義感を振りかざす人を見ると、
その魂がどこまで澄んでいるのか、見たくなる」
少しイカれた言い回しで煙に巻く。
どうせ、もう二度と会わない。
「アテラ、
言葉が追いついたら、急に大人みたいになったね」
人生経験的には、
高校一年生相当……いや、
この世界の年換算だと、
ざっくり1.3倍して…19歳。
ほぼ大人だ。
「お姉ちゃん。
大人って、何歳から?」
「16歳だよ。
ほとんどの種族は、その頃に外見の変化が止まるの」
……つまり私は、
もう大人相当の人生を経験している。
よし。
圧倒的な“大人の自覚”を持とう。




