19.先生の面談
「メイラ先生、時間になりました」
ノアテラがそう告げると、数秒して奥から声が返ってくる。
「入っておいで」
「失礼します」
「やあ、ノア。よく来たね」
「ご無沙汰しておりました」
先ほどの印象とは打って変わって、
目の前にいたのは温厚そうな狐顔の人物だった。
思っていたより若い。
ノアテラの“本当の姿”と、そう変わらないのではないだろうか。
「紹介します。私の弟子のアッティラです。アテラと呼びます」
「ずいぶん可愛い弟子じゃないか」
「あてらです」
弟子、か。
……まあ、許容しよう。
「単刀直入に言います。
デューナメース認定企業に入社するため、
私と一緒に、この子を推薦していただきたいのです」
「ほう、そういうことか。確かに、現役デュナトスではないノアの推薦だけでは弱い。
しかも制限年齢ぎりぎりの子……
だが、私の推薦を求めるとは、よほど自信があるんだろう?」
「はい。この子には、計り知れない底があります」
……褒めてるのかな。
含みのある言い方で、少し落ち着かない。
ノアテラの真剣な視線の先で、
メイラは私をまじまじと観察している。
「ふうん……確かに。肝は据わっているね」
「はい。話し言葉こそ赤子のようですが、天才です」
「天才ねえ……」
前世では、「天才」という言葉ほど
安売りされているものはなかった。
もう少し、ひねった表現はなかったのだろうか。
それにしても、顔が近い。じろじろ見ないでほしい。
「なるほど……使っているね。元は何歳だ?」
「……さすがです、先生」
――ばれた?
ノアテラは『私の言ったことに必ず合わせてね』と言っていた。
今、私は何も言われていない。
ならば、動かない。
石像のように、黙ってやり過ごそう。
「まったく喋らないじゃないか。緊張しているのか?」
「はい。シャイな子でして……では、元に戻します」
ノアテラがデュナミスを使うと、
白い霧に包まれ、私は元の姿へ戻った。
一歳の私を見た瞬間、
メイラははっきりと目を見張った。
「……つまり、これはこの子のデュナミスコピーか」
「はい。覚醒としての総量は十分でしたが、
それでも数日で、この水準に到達しています」
「……はい、そうです」
一応、ノアテラに合わせて発言しておく。
「おかしいな。
猫族の一歳児が、ここまでの想像力を持つはずがないのだが」
メイラは首をかしげ、私の目を見つめる。
その点については、私自身も同意だ。
「メイラ先生。
それと、アテラのデュナミス・コアを調べていただけませんか」
「……うーん」
ノアテラは分かっていらっしゃる。
頼む、先生。
「……うーん」
メイラは深く考え込んでいる様子だ。
私がメイラなら、間違いなく警戒する。
この喋らない子供は怪しすぎる。
「……二つ」
メイラは短く言った。
「一つ。
その“アテラ”という子を信用できる根拠」
だよね。痛いほどわかる。
こんな一歳児、怪しくないわけがない。
デュナミスが何でもありで、
ポリコレが蔓延するこの世界だ。
疑わない者から奈落に落とされる。
「もう一つ。
なぜ“男の少年”の姿に変えたのか……教えてくれ、ノア」
「……アテラの技量を、お見せできると思ったからです」
……あ、
嘘ついた。
「では、最初の質問に答えてくれ。
アテラという子が信用できる根拠は?」
「この子の出自は把握しています。
母はスコア・フルネガティブで殺害され、
親権を獲得した高スコアの犬族、
ナーク・アーグスという者に育てられていました。
殺害の経緯は伏せられていますが、
本人に裏を取りました。偽りはありません」
「……複雑だな。
犬族が猫族を殺すのは、スコア優位でも簡単じゃない。
何かあるだろうが……とりあえず、こちらは良しとしよう」
“こちらは”。
メイラは、そう言った。
「……」
「……」
二人の間に、短い沈黙が落ちる。
「さあ。
本当の理由を言いたまえ」
「……可愛い男の子が、好きだから……です……」
「よろしい」
嘘を見抜いたのはデュナミスか、
それとも長年の勘か。
ノアテラの、せめて秘めておきたかった願いを、
私にも、先生にも言わされて……世知辛いことよ。
それでも、少し安心した。
主従リンクは本音を引き出せている。
そしてメイラは、嘘は見抜けても、心までは読めないだろう。
「さて、アテラちゃん。
なぜデュナトスになりたいのかな?」
急に話を振られる。
嘘はつけない。
だが、私には武器がある。
「あてらです」
「……」
――そう。
言語力が足りない、という最強の盾がね。
「先生、すみません。
先ほど申した通り、アテラは言葉がまだ拙くて」
「分かっている。
私は“思考”を見ているだけだ」
……怖い。
いや、今までの流れからして、これはハッタリだ。
「……」
目が合う。
私は、メイラの目を真正面から見返した。
そうだ。デュナトスに相応しい態度で行こう。
「確かに。
デュナトスになりたい、という意思は目に出ている。
ただ、ノア……この子は女のままの方が性に合っていそうだ」
「……はい」
……もしかして、
私の“何か”を感じ取った?
だとしても、女だろうが男だろうが関係ない。
私は、私だ。
「だが――男の姿の方が、面白そうだ」
そう言うと、
メイラは私に向けて白い霧を発生させた。
「髪型は、こちらの方がノア好みだろう。
それと、推薦の件は引き受けよう」
確かに、少し変わった気がする。
襟足が、すーすーする。
「ありがとうございます!」
ノアテラは、心底嬉しそうだ。
……しかし、
本当につかみどころのない先生だなあ。




