1.仇の子
枝葉の隙間から、光が漏れている。
瞬いても視界は動かない。
「どうする?赤ん坊も殺すか?」
唐突に、物騒すぎる言葉を耳にする。
どこか軽くさえ感じるほどだ。
その矢先、視界に人型が映る。
それは、黒い鼻、垂れ耳の毛深い男女だった。
「…あとで化けて出てくるかも」
「殺さなくても野垂れ死ぬだろうけどな。一応だ。」
「ねぇ、この子の顔…」
犬顔と目がぴったり合った。
私…手足はあまりにも小さい…赤ん坊?
あれ、死んだはず──
…殺す!?
「ア、バアー」
咄嗟に作る屈託なき笑顔。
額が痒い。
犬女は頬を緩ませて口を開く。
「かわいい。連れていってもいいかも」
「お前…流れたことは辛かったが、こいつはきっとあの女のガキだ。同族をやった敵だぞ」
『あの女』…私の母で彼らの敵。背筋が冷える。
だがここは森で、私は赤ん坊…すがってでも…。
「バアーブ、アーアー、マーマ、バーバー」
「うわ、気味悪いな。…始末したほうがいいぞ」
犬男の右手は何かを持っている。
額がズキズキしだした…落ち着け、自然に。
しゃべらず目をぱっちり見開くだけ。目で語るだけ…
「ほしい。この子…」
「いやいやいや…愛せるのか?仇の子を」
犬女はひとまず…しかし犬男は厄介だ。
泣くか?いや男は赤ん坊の泣きには厳しい気がする。
妹のやっていた、両手足をあげてくっつけるかわいい仕草をしてみる。
「…つれてく。あたしが面倒みる」
「むぅ、手に負えず捨てるにしても、物心ついてからじゃ遅いぞ。狡猾な奴らだからな。」
もっと犬男を引き込まないと捨てられる。
…目をいっぱいに潤ませて指しゃぶりをする。
すると犬女は、私を優しく抱き上げた。
「こんなに軽い」
そのまま犬女は、黒い鼻をこちらにぐっと寄せる。
「ほら、あいつらのような血生臭い匂いもないよ」
血生臭…。
「まぁ、あの部族には何十日もいなかっただろうな。
お前がそんなに言うなら…」
「うん。あたしたちの子」
部族の違う親…。
「まぁ、この赤ん坊は何も悪くないが…」
犬男の表情は曇ったままだ。
不意に、犬男は私の臀部に軽く触れる。
そして閃いたかのように表情は吹っ切れた。
「生まれたばかりだ。しっぽが切られて間もない」
しっぽ。私の…しっぽ?
「実子で通すぞ。それなら配給も潤沢だろう。俺達でもやっていける」
「うん…」
犬女は私の頭を撫でて満足げだ。
「急いで行くぞ。誰にも見られないうちに」
…そうして私は連れていかれた。
道中で犬男は、垂れ耳を何度も掻いていた。
私を抱く犬女からは、独特の犬臭さがあった。
そして仇の子として、か。
危険な家族──私の『再発防止』が生死を分ける。




