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1.仇の親子

気づくと視界は森の中。

何かの喋り声が聞こえる。


「どうする…?赤ん坊も殺すか?」


物騒なことだなぁ。

どんな世の中に赤ん坊も殺す殺人鬼がいるのかと。


そう考えていた矢先に、目の前に犬みたいな顔をした男女が映る。

犬の特殊メイクか。映画撮影みたいだ。


「やめときなよ。あとで化けて出てくるよ。」


「そうだな、生まれる子に罪はないか。

 それにしてもかわいいな。」


「かわいいね」


二人と目がぴったり合っている私。

え…私…ですか…?


死んだはずの自分。それを『殺す』…つまり生きてるということ。


ほ、ほらちゃんと無からも解放されるじゃない。

──ね、シッダールタさん。


「ア、バアー」


私は咄嗟に屈託のない笑顔を作った。

妹が赤ちゃんである時に学んだ、これこそが赤ちゃん最強の武器、死にたくないという本能からくる笑顔である。


「ほらかわいい。ねえ、連れて帰ろうよ。」


「お前マジで言ってるのか、セブリの子だぞ。父親はどこの馬の骨かわからんぞ。」


セブリが私の母か。セブリを殺したのかな。なぜ殺したんだ…。

母をやっていようが、ここは森。私は赤ん坊。

頼るしかない。どうやったら助かる…?


「バアーブ、アーアー、マーマ、バーバー。」

「うあ、この子しゃべりすぎて怖いな…」

やりすぎた。自然に、自然に。

そして今更ながら気づく。

─私は言葉が分かるすごい赤ん坊だ。


今はとにかく無垢を装った。

しゃべらず目をぱっちり見開くだけ。しゃべらず目で語るだけ。


「ほしい。この子…」


犬女の方はちょろそうだった。終始私に釘付けである。


「いやいやいや、愛せるか?(かたき)の子を。」


犬男は慎重だ。こういう奴の方が信用できる。

泣くか?いや男は赤ん坊の泣きには厳しい気がする。

私は赤ちゃんのかわいい仕草ランキングに乗りそうなことを試した。


妹がやっていた、両手足をあげてくっつけるという謎の仕草をしてみた。


「…。あたしが面倒みるから。」


犬女が反応した。


…必死に踏ん張る顔もしてみた。


「むぅ、飽きたら捨てるとかはしないと思うが、大きくなってから後悔しても遅いぞ。」


もう一押し。


…優雅な感じに指しゃぶりをする。


「いいよ。」


反応は悪くない。


…じたばたじたばたしてみる。


「この子もつれてほしがっているのか。今なら親が誰かもわからんか。」


「うん。あたしたちの子。」


残念ながらわかるよ。殺したことも忘れないよ。

…でもきっと助けたらいいことあるよ。


そんな命乞いの感情は殺して、とにかく無垢な感じを顔にだすように努力した。

赤ちゃんでどんな表情になるかはわかりませんが。



結果として私は連れていかれた。

そして家についてもずっと変わらない犬女と犬男は特殊メイクでなく本当に犬だった。

多分これは異世界転生ということなのだろう。

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