14.脱走計画
「おばあちゃん、なんさい?」
本音が聞けるとは思っていない。
けれど、聞いておく。
「四十三歳よ。この前、エンニちゃんが相殺した姿が本当の姿なの」
「そうさい……?」
「ええとね。デュナミスとデュナミスがぶつかると、多くの場合、両方とも消えてしまうの」
それは、これまでの経緯からも察しがつく。
私が知りたいのは、そこじゃない。
「……はんぶんこ?」
「半分? ああ、そうねえ。
エンニちゃんは、おばちゃんを半分だけ変えたの」
ノアテラは少し考えてから、続ける。
「私はこの“おばあちゃんの姿”と“外の姿”を重ねていてね。
それを相殺、つまり消すことで変えているの。エネルギーの節約よ。
エンニちゃんがやったのも、同じこと」
節約なんてあるんだ。
「でもね。エンニちゃんは、うすーく一枚消したんじゃなくて、
半顔だけを、何枚も一気に相殺したの」
「……」
「エンニちゃん、頭がいいから。
重ねることと相殺すること、すぐにできるようになるわ」
そんな特性があるのか。
そういえば、ノアテラが最初に変身したとき、
息を切らしていなかった。
あれは、エネルギーを節約できていたからかな。
「おばあちゃん、すごい」
ふと、気づく。
私が元に戻りたいと言ったとき、一時間待てなどと言わずに、
相殺のことを教えてくれればよかったのではないか。
……あぁ。
もしかして、ノアテラは男の子の姿が好きなのかな?
本音を聞く、いい機会を思いついた。
「おばあちゃん。
ほんとうのエンニと、今のエンニ。どっちが好き?」
正確な答えが欲しくなると、どうしても言葉が多くなる。
でも、もう気にしなくていいや。
「そうねえ……どっちも好きよ」
「おばあちゃん。
本当のこと、いって?」
さて。
主従リンクは、どう反応するだろう。
「えっと……あ……」
「本当のこと、いって?」
「……今のエンニのほうが、好き……かな」
「どうして?」
「どうしてって……」
「おばあちゃん。
本当のこと、いって?」
「……男の子のほうが……その……かわいいから……」
「じゃあ、エンニ ずっとこの姿にするね」
「……」
「うれしい?
おばあちゃん、本当のこと、いって?」
「……うれしい」
私は、満足そうに微笑んだ。
主従リンク。
まだ100%とは言えないけれど、
これは機能している可能性が高い。
なんて、恐ろしいシステムだろう……。
さぁ材料は、だいぶ揃ってきた。
お母様が出産する前に家を出ることも、
不可能ではない。頑張ろう。
「エンニちゃん、その飾り、どうしたの?」
お父様からもらった、耳のリングのことだ。
「パパからもらったの。
なかなおりのとき」
「……そう」
「パパ、こわい。でも、好き」
「……そうよね」
少しそっけない感じがする。
嫉妬かどうかは分からない。
けれど、私が命の危機を脱してデュナトスになるには、
ノアテラでなければならない。
「ノアテラおばあちゃんも、パパと同じくらい好き」
好き、というより。
ノアテラじゃないと、だめ。
それを信頼として受け取ってもらわなければならない。
……どう伝えるか。
子供の『好き』なんて、
簡単に本気にしちゃだめだよ、ノアテラ。
「……うん。ありがとう、エンニちゃん」
「エンニって、よんで?
かぞくみたいに」
「そうね……。
せっかくだから、名前も男の子っぽくする?」
急に来るねえ。
ノアテラの中では、
“エンニが家族になったら”というイメージが、
すでにあるのかもしれない。
「なまえ、つけてー」
「アッティラ。どう?」
……はい?
アッティラ。
前世では、確かかなりやばいやつだったはずだ。
民族大移動の元凶、とか。
たぶん、前から考えてくれていたのだろう。
深くは気にしないでおこう。
「あってぃりー」
「アッティラ、呼びにくいかな。
呼ぶときは、アテラ」
「あてらー」
ノアテラと、アテラ。
本当の親子みたいだと思った。
……私は名前に無頓着だ。
前の名前――せつなにも、特別な愛着はなかった。
ただ、仏教用語由来だったことは、
少しは人生に影響していたかもしれない。
それよりも、だ。
認定企業へ入る流れを、作らなければ。
「おばあちゃん。
アテラ、でゅなとす、なりたい」
「まだ早いって……あ、そうか」
ノアテラは、きっと気づいた。
年齢詐称デュナミスの可能性に。
「アテラ。私と一緒に行く?」
「うん。いく。」
この危険な誘いは、大人のノアテラが行うにはあまりに軽率だと思う。
しかし間違いなく私が望んだものだ。
そして――
現状で取れる、最善の脱走計画でもある。




