10.小さな賭け
ノアテラは、私が落ち着いてくると、そっと頭をなでてきた。
「苦しくなっちゃうのよね。デュナミスを使うと。
それでね、今エンニちゃんは、デュナミスに覚醒したのよ」
「……かくせい?」
「そう。今までで一番強いデュナミスを受けると覚醒するの。そのときに思い描いたイメージで、使えるデュナミスが決まるのよ」
そんな仕組みがあったんだ。
今までで一番強いデュナミス……。
ということは、これが一回目なら、弱い方が――
……あれ? もしかして、取り返しのつかないことをしているのでは……。
「おばあちゃんのでゅなみす、つよい?」
「そうねえ。強い方ではあるかしらね」
ノアテラは、なぜかドヤ顔だ。
いや待って、それって覚醒回数、減らない?
「もう、でゅなみす、ふえないの?」
「私より強いデュナミスを受けるまでは、そうねえ」
なにが「そうねえ」なのですか……。
これは、やってしまったかもしれない……。
「でも大丈夫よ。これは“デュナミスコピー”っていってね。
覚醒しているのは、本当にエンニちゃんが持っている才能とは別なの」
「エンニ、よくわかんない」
エンニ、よくわかんない。
「デュナミスコピーは、私が使ったデュナミスなの。
エンニちゃんは最初から強いデュナミスを受けたから、ほぼ完ぺきにコピーできるのよ。
その代わり、こまごまと他のデュナミスを覚えることはないけどね。
それでね、エンニちゃんの“本当のデュナミス”は、また別にちゃんとあるの」
なるほど。
よくわかった。
――だがノアテラ。
これは一歳児が理解できる内容ではない。
「エンニ、わかんない」
「そうねえ。
私のデュナミスが強いから、エンニちゃんは私のデュナミスを使えるの。
もし私のデュナミスが弱かったら、使えなかったわ。
それからね、エンニちゃんはもう一つ、エンニちゃんだけのデュナミスを持っているのよ」
うんうん。
これが説明の限界だよね。
ここは、わかったようにしておこう。
「そっかー。エンニ、つかえたね。ありがとう」
デュナミスを“ほぼ完ぺきにコピーできる”と言っていた。
それなら、どうして私はノアテラを半顔メイクにしかできなかったのだろう。
……良い質問が思い浮かばない。
まずは、簡単なところから前に進もう。
「エンニ、もどりたいなー」
「このデュナミスはね、相殺もできるけど、時間が経てばちゃんと戻るの。
あと一時間くらいかしら。わかった?」
「わかったー」
時々、ノアテラは一歳児が理解し得ない単語を平然と使う。
時間の単位も、一歳には分からないと思うよ……。
たぶん、ノアテラは子育てをしたことがないのだろう。
そうなると、この子供部屋は何なのだろう。
仮住まい? 賃貸? それとも、わざわざ作った?
「おばちゃん、ひとり?」
実にダイレクトな質問である。
「あら、エンニちゃんが家族になってくれるの?
おばちゃん、大歓迎よ」
ノアテラ、そうじゃないんだ……。
いや、それもありなのか……?
私の直感では、この「イエス」は良い方向に転ぶ気がする。
もちろん、お父様やお母様に悪い変化をもたらす危険もあるかもしれない。
その先は読めない。
小さな私にとっては、大きな賭けだ。
「なるー。エンニ、おばあちゃん、すきー」
少し罪悪感はあるけれど、好きなのは嘘じゃない。
今の私に、希望をくれた存在なのだから。
「よしよーし。エンニちゃんは、いい子ねえ」
また、頭をなでられた。
前世では、大人にされるなでなではあまり好きじゃなかったけれど、
こういうときのなでなでは、悪くない。
その後、私が元の姿に戻るまでは、読書をさせてくれた。
その日は、良い雰囲気のまま、家の前まで送ってもらった。
別れ際、ノアテラは、私が見えなくなるまでずっとこちらを見ていて、
とても幸せそうだった。




