108.至高のデュナミス
(カルテイン、例のを使用してください。みなさん違法行為を慎んで。)
私はカルテインに兼ねてより準備していたデュナミスを依頼した。
カルテインは地を這う数字のような幾何模様のような羅列を大広間全体に走らせる。
それは黒く重厚に刻まれると、薄赤い眩さを発した。
これが…カルテインのデュナミス…。
そして数秒と経たずにセシザは動けなくなる。
先程まで暴風如く荒れていた刃物の嵐もピタリと止んだ。
(アルドゥークの無力化に成功しました。干渉攻撃を全力でお願いします。)
これで防壁を削り切れば勝利…。
(濃霧の維持を解除してください。)
続けて指示を出しておく。
「アルドゥーク、特異点は私が倒す。だから降参してください。」
私は動けなくなったセシザにそう言っておいた。
これで降参させるのは難しいだろうけれど。
「…やってくれたな雑魚ども。」
セシザからは降参の代わりに暴言が返ってくる。
カルテインは棟内にデュナミスを発動させていた。
それは殺人罪の即時執行。
セシザが同族の大量死を起こせるのであれば、それは死、つまり、自分で殺したと認識しているはずだから効きも完璧だろう。
殺人罪を償うまでセシザは動けない。
しかし私達も、拘束している罪人セシザを傷つけることも罰がつくためできない。
武力を無効化するには至高のデュナミスだが、セシザに降参する意思がなければ、このままセシザは拘束されて生き残り続ける。
「アルドゥーク、特異点の情報をいただけませんか。」
「…」
セシザからは何の返答もない。
(ラニュヤ、色は?)
(だめね、青も青。まったく枯渇する気配はないわ。)
こちらは20人以上、干渉デュナミス持ちだけでも10人はいる。
防壁が私と同じようなものなら5,000くらいは削っているはず。
私もセシザに変身デュナミスをかけて防壁を削りにかかった。
「俺の防御を破ろうとしても無駄だ。」
セシザはそう言って僅かな笑みを浮かべる。
私達がとどめを刺せないことを悟られた可能性は高い。
「やってみないとわかりませんよ。」
防壁は、理論上はいくつでも重ねかけができる。
増強などの強化がいらないのならば、日をかけて何十万、何百万も重ねることが可能だろう。
砂煙が晴れてきた。
「おーい、何止まってるの?」
クェルティナ達はこちらの異様な光景に気づいて歩いてきた。
「クェルティナ、アルドゥークは動けない状態にしてあります。
干渉で防壁を破るのを手伝ってもらえませんか。」
まだ部屋の奥には終齢の者や中齢の敵対勢力がいるのはわかっている。
しかしその全員よりもセシザ一人の方が遥かに危険だし、皆もそう思うだろう。
「そうね、みんなに伝えてみる。」
クェルティナの向く先は視界がクリアになってきており、大方の配置が見える。
50人強か…。これだけの人数が協力すれば、何万もの防壁を削り取れる可能性だってある。
私達やセシザがいる方、大広間の南方面に初齢の者達がバラバラで点在しており、北方面は中齢、終齢がやや密集している。
彼らはこちらを向いて警戒を始めているようだ。こちらが無害であることを上手く伝えよう。
「…参します」「降参」「降参です」…
ぽつぽつと降参者が現れた。
しまった、視界がクリアになったせいでセシザの起こした惨劇が見えて戦意喪失したのか。
「みなさん、降参は待ってください。もうあの攻撃は来ません!」
私は咄嗟に大声でそう伝えた。
「協力を!私達に攻撃の意志は…」
「終了です!みなさん、これより武器を下ろして攻撃を止めてください!」
遅かった…。
18番の人々の半数が脱落したようだ。
初回で決めたかった…。
地を這う印字が薄くなっていくようにみえる。
そしてセシザが動き出した。あれ…。
「カルテイン、あなたのデュナミスは解けないっていってなかった?」
エルイーナがすぐに状況を察してカルテインに話しかけた。
「おかしいですね…。今まで一度もこんなことはなかったのですが。」
カルテインが答える。
カルテインの法定属希少種である強制執行。
私達の奥の手は、デュナメイオン運営の力をもってすれば解除できるということか。
「そういうことか。…強いデュナミスだ。」
セシザがそう呟いた。
奥の手のからくりを知られたことになる。
これは完全に想定外。勝ち筋がついえたかもしれないほどに…。
「今、降参しなかった者達42名、明日の8:00、再度この大広間にお集まりください。」
教官がそう言った。決闘場所の再編成もなく同じカードで戦うということになる。
これでセシザとの情報差が埋まり、難易度は大きく増した。
奇襲もない、セシザの敵意は十分、味方は相手に恐怖を覚えた、そして全てのカードが知られている。
私の前に最大の困難が立ち塞がった…。




