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103.距離感

『才覚』プログラムの演習期間が終わり、討議期間に入った。


討議は本来、大広間で行われるはずだったが、今回は非公開で実施されるらしい。

理由は単純で――デュナトス側が何度も負けたためだ。


つまり、時間が空いた。

初齢会談は四日後。

次回プログラムの発表日に合わせて設定してもらっている。


一度接触した中齢…『才覚』プログラムの期間中に交流は確実に広がっていた。

私は中齢白刃を除く各陣営と、できるだけ敵対しないよう対話を進めることにした。


まずは、青月・黒風の同盟に影響力がありそうな人物――センシアだ。


「君がアテラだったんだねえ。チターナがお世話になってます」


「こちらこそお世話になっております。

 中齢の美しい淑女といえばセンシアさんと伺っております。

 その節は大変ご迷惑をおかけしました」


よそよそしく、丁寧に。

チターナのような距離感にならないための、明確な対抗策だ。


「お利口。チターナから聞いた“性悪”さんとは思えないね」


「性悪は否定できません。

 私、心は貧しく、皆さんの温情なくしては穏やかに過ごせません。

 お恥ずかしい限りです」


「アテラ、キャラ変わってない?」


チターナのツッコミが入る。

今だ。


「はい。チターナさんのご鞭撻があって、今の私があります。

 青月への奇襲についても厳しくご指導いただきました。

 “人の道を外すな”と。今は感謝しかありません」


「ふーん。そんなこと言うんだ。チターナも大人になったねえ」


そうだ。

私は矮小な存在で、チターナに生かされている――そう“見せる”。


「お姉ちゃん、この子に騙されたらだめだよ。

 可愛い顔して中身は結構悪魔だから」


「はい。チターナさんには本当にご迷惑をおかけしてきました。

 出会わなければ、今ごろどうなっていたか……」


「“チターナさん”って、いつも言わないよね?」


……うん、そうだね。

距離感を演出するには、今はその方がいい。


「チターナ、可愛いからって愛の鞭もほどほどにね。

 アテラくん、萎縮してるよ?」


「違うってば。

 アテラは調子に乗ったら、こう、ぎゅってやって黙らせればいいの。

 お姉ちゃんが天敵タイプだからビビってるだけ」


チターナが後ろから抱きついてくる。

……落ち着け。

ここぞとばかりに、私は心頭滅却する。


「こうして愛情で包んでくれるから、私の心は穏やかでいられます。

 チターナのぬくもりが、私を救ってくれたんです」


「……」


「いい子いい子。これからもチターナをよろしくね」


センシアに頭を撫でられた。

こうして、私は危機を脱した。


教養的で従順な態度を演じることで、

“チターナの信用”が前面に出る形となり、余計な探りを入れられずに済んだ。


本題もスムーズに進み、結果として――

中齢の青月・黒風・黄昏は、白刃と組まないという意思表明を得た。


なお、中齢黄昏は『攻城戦』後、すぐに青月・黒風と同盟したらしい。


帰り道、チターナが聞いてくる。


「アテラ、なんであんな意味わかんないキャラ演じたの?」


「センシアの性格が、チターナに似ていると知っていたからです。

 ぼくは過去、距離感が近すぎて、女の人を好きになってしまったことがあります。

 同種の要因は避けたかった」


端から見れば変な発言だが、

この世界なら理解される――たぶん。


「へー。じゃあアテラ、私に気があるってこと?」


「いえ。そう"なるのが怖い"、という意味です」


「ふーん。

 頭脳明晰で冷徹かと思ったら、意外。

 もう少しちゃんと向き合えばよかったかなぁ」


意味深なことを言いながら、

チターナは私をおぶり、脚を抱える腕に力を込めた。


その夜、討議の結果がアナウンスされた。


「プログラム『才覚』の勝者を発表します」


「本来、本プログラムは講習内容を完全に理解し、

 『混合形成』を使いこなす者に与えられる評価です」


「しかし今回は、Tier2デュナトスを破った者こそ、

 最高評価に値するという結論に至りました」


読み上げられる名前。


「読心のタルホァを破った者――

 『アッティラ・ラシュターナ』

 『サルサ・ラー』」


「天征のスクハを破った者――

 『セシザ・バルケア』」


「食歳のべーリンを破った者――

 『リンヌァグジアス・ザーグェロト・アーミヴェイヅ』」


「反象のラダを破った者――

 『アーズ・ロムリス』

 『リンヌァグジアス・ザーグェロト・アーミヴェイヅ』」


……五人中、四人。

世界に六十名ほどしか存在しない超上位――Tier2デュナトス。


その大半が破られたという事実。


それが、今期デュナメイオンの異常性を、雄弁に物語っていた。

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