102.番狂わせ
中齢白刃の者たちが、こちらをじろじろと見ながら帰っていく。
せめて透明化して来るべきだったかもしれない。
「おこちゃま、来てるじゃん」
アーズが私に気づき、声をかけてきた。
「こんにちは。デュナトス撃破、おめでとうございます」
「見てたのか。……ああ、そうだ。お前に聞きたいことがあったんだ」
そう言って、アーズは距離を詰めてくる。
「何でしょうか」
「結局、お前は何ができるんだ? このデュナメイオンの“特異点”は、お前じゃないのか?」
アーズは私の肩を鷲掴みにして言った。
――何か来る。
直感的にそう感じた。
この“掴む”という行為自体が、私に本音を吐かせるためのデュナミスを伴っている。
「変身のデュナミスと、包含属の未知のデュナミスです。
何もできないと言っても過言ではありません」
「アルは“特異点じゃない”って言ってたが……どう考えても胡散臭すぎる。
なんでこんなおこちゃまが初齢をまとめて、
俺たちですら難しい中齢全落としを成し遂げた?」
特異点――
どういう意味だ。
「私の力ではありません。
ハクレイ、各色代表、そして周囲の協力が噛み合った結果です」
「その発言がもう臭ぇんだよ。
何もできないお前が重用される? 自分の矛盾に気づけないほど染まってんのか?」
アーズの言葉は、これまで出会った誰よりも容赦がない。
“染まる”――
彼が敵視している何かがあるのだろう。
「私は、この世の何者にも染まりません。
特異点とは何ですか」
「……しらを切るのも上手そうだな」
肩を掴む力が強まる。
「私は子供という立場を使って注目を集め、 象徴的な役割を得ただけです」
「まるで大人みたいな物言いだな、特異点め」
「アーズ、そいつとはあまり話さない方がいい」
セシザだ。
こちらへ歩いてくる。
「アル、やっぱこいつ臭ぇよ」
「匂うのは分かるが、特異点じゃない」
臭いだの匂うだの、失礼極まりない。
「その小僧の危険性は力じゃない。内面と話術だ。
ボスやヤスヴァーの域と思っていい。
力で制する方が、よほど健全だ」
「……確かにな。こっちがガキだったわ」
二人はそれだけ言って、無言で去っていった。
この割り切りの良さも異様だ。
まるで、このデュナメイオンで築く人脈など、最初から不要だと言わんばかりに。
「また次のプログラムで会いましょう」
私は手を振っておいた。
外の購買で待っていたメイにおぶってもらい、帰路につく。
歩きながら、脇の下の数字を確認した。
『4776』
修練を重ね、日当たり170回ほどの重ねがけでも生活に支障は出なくなった。
『コンプライアンス』期間中に4000以上積み増し、
本来なら7000を超えていたはずだ。
――だが、アーズに触れられた瞬間、2000以上削られている。
メイラ先生の
『本気の一撃なら300枚は破壊される『』
という見立ては、甘すぎではないか?
経験豊富な先生が、そんな見誤りをするとは思えない。
……このデュナメイオン参加者たち、やはり何かおかしい。
三日後、神杖のナグジャが演習に来た。
中齢白刃でラダが破られ、初齢赤誠でタルホァが破られた影響か、彼は最初から本気だった。
七本の棒を自在に操り、伸縮させて戦う姿は、まさに闘神。
挑戦者を徹底的に叩き潰していく。
チターナですら、反射を上回る速度の猛攻を受け、完敗した。
私は挙手しなかった。
武器持ち相手は、さすがに分が悪すぎる。
後で聞いた話では、
ラダは終齢赤誠でも大敗し、
天征のスクハは中齢白刃で敗北したらしい。
教官曰く、
「講師として来るTier2デュナトスが負けるのは、滅多にない番狂わせ」
とのことだった。
……よく分かった。
実力面での“特異点”は、中齢白刃。
彼らを力で下すことができれば、『イデア』に強烈な印象を残せる。
それは、入社直後からの優遇――改革への早道。
その切符を掴むことに等しい。




