表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/110

101.詐称

自分にデュナミスをかけ、接近する。

イメージはテリジノサウルス。


開始の合図など気にしない。

とにかく、爪痕を残す。


「外観はユニークだけれど……」


タルホァは、私の爪を容易くかわす。


「鈍いわね」


その一言とともに、私の変身は解除された。


──思い出せ。

私は両親を殺された。


『雪猫団』の強襲を受けた故郷は、武器庫も穀倉も焼かれ、公邸は破壊された。


街を守るために出ていった父は、二度と戻らなかった。

逃げ惑う同族は殺され、降伏した者だけが焼き印を刻まれ、奴隷として生かされた。


まだ乳歯も生え揃わない頃、

小さな背中いっぱいに焼き印を刻まれ、私の絶望の人生は始まった。


──豹へ変身する。

暗い過去の情景を保ったまま跳躍し、首元へ牙を剥く。


タルホァは対処が遅れつつも、反射的に腕で払い、

私はその腕に噛みついた。

しかし、直後、正拳突きのような一撃を受けて吹き飛ばされた。


……痛い。

床に転がり、震えながら歯を食いしばる。


次は、カマキリ。


三歳にも満たない頃、私は奴隷部屋の清掃を強制されていた。

与えられるのは雑巾一枚と大きな椀だけ。

汚物を拭えば、別の汚物を塗り付けられる。


他の奴隷は私を殴り、蹴り、

流した涙が、便器をわずかにきれいにした。


──大鎌を振るい、タルホァの脇腹を狙う。

一瞬の動揺。

刃は彼女の胴をかすめ、服を裂いた。


「……っ」


裂けた布の下、血がじわりと滲む。


母は、奴隷売買のフロントを強制されていた。


便所掃除の母として、

同胞を売る裏切り者として、

奴隷たちからも激しい憎悪を向けられた。


ある朝、母は死体で見つかった。

奴隷たちは揃って「自殺だ」と言い張った。


だが、無数の外傷は明らかだった。

長時間いたぶられ、最後に殺されたとしか思えない。


そのとき、私は目から血脈が噴き出す感覚を覚えた。

怒りで、憎しみで、脳が燃え上がる。

──殺したい。


それなのに、身体は動かない。

恐怖で震えるだけだった。

流れたのは、一族の誇りの血ではなく、

命乞いの涙だった。


周囲はそれを見て笑った。


「この涙で掃除がはかどる」


「小汚いガキに親なんて贅沢だ」


──カマキリの腕をシャコの手へ変形させ、

全力で突きを放つ。

今度は、顔面に当たった。


威力は小さい。

それでもタルホァは押され、尻もちをついた。


罵声を浴び、汚物にまみれ、それでも生き延びた日々。

父も脱走犯として最下層に落とされ、奴隷以下の扱いを受けていた。


タルホァは立ち上がらない。

俯いたまま、戦意を失っているように見えた。


周囲がざわめく。


「え……タルホァさんとアテラの演習は、ここまで」


教官も事態を把握できていない様子だった。

私は静かに一礼し、その場を去る。


その瞬間に見えたタルホァの顔は、

硬直し、小刻みに震えていた。

──心の優しい人なのだろう。


その優しさゆえに、

目の前の私と向き合うことなく、

内側だけで受け止めてしまった。


それが、この結果だった。


演習は続く。

タルホァは徐々に立て直し、赤誠の参加者を次々と退けていく。


あのメイですら、子供扱いされて完封された。

彼女の読心が、

思考だけでなく身体への電気信号まで読めるのだとしたら、勝てる者はほとんどいない。


唯一、チターナとの演習だけは拮抗した。

全反射と読心が拮抗、互いに決定打を与えられず時間切れ。


だが、あと一時間あれば、

チターナのデュナミス残量が尽きていたはずだ。


こうして、最初の演習は終わった。


「タルホァさん、小さい男の子を殴れない人なのかな。

 一発は殴ってたけど」


「恐らく……必死さを読まれて、同情されたのでしょう」


ルレウの疑問に、私はそう答えた。

フィジカル弱者の私が出し尽くした全力の手段は、

人格を疑われかねない。


種明かしはできない。

そして、私には他に示せる武はない。

この“大金星”で評価を得るしかない。


その後、私は他棟へ情報収集に向かった。


現在のプログラム初日、

中齢では青月と白刃にそれぞれ一名ずつ、Tier2デュナトスが演習に参加しているらしい。


気になって白刃棟へ向かうと、

ちょうど一回目の演習が終わったところだった。


「さすがアーズ。現役Tier2のラダをやりやがった」


そんな声が、大広間から部屋へ戻る者たちの間で聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ