100.格上戦
翌日、初齢会談が行われた。
本来は競争プログラムを前提とした場だったが、実際には競争が行われなかったため、形式的な事務連絡のみで解散となった。
その後、ハクレイに呼び止められる。
「次のプログラム『才覚』だが、本来ならTier1デュナトスが一人か二人は来るものだ。
それが来ないということは、未開地での大攻勢か、政局の変化。いずれにせよ、きな臭い」
「そうなのですか。採用直後の任務にも影響しますか?」
ノアテラがデュナトスになるまでは、1・2の日が教習、3の日が休み――
つまり、ある程度の研修期間があるはずだ。
「教習をしている余裕があるかどうか……。ほとんど前例がないからな」
「ハクレイは、どこの企業を志望しているのですか」
「イデアだ。俺の故郷を解放した企業であり、世界の邪悪がひしめく組織だ」
邪悪──
ハクレイはメイラ先生のような言い回しをする。
それほどまでに、内部は黒いということなのだろうか。
「奇遇ですね。私もイデアを志望しています。
勢力ではヴィスパダトに及ばないと聞いていましたが、デューナメース中枢に最も近いと考えました」
「フ……お前は、そういうところがまだ勉強不足だ。
残りの期間は、その曇った目を晴らすことに使え」
そう言って、かすかな笑みを浮かべたままハクレイは去っていった。
──どういう意味だろう。
そのまま、プログラム『才覚』に突入する。
最初の五日間の講習は、私にとって非常に有意義なものだった。
最大の収穫は、デュナミスの運用法に「混合形成」という概念があると知れたことだ。
同系統のデュナミスを複数混ぜ合わせ、性質を部分的に変化させる手法。
代表例が、引斥の「加速」と回帰の「修復」、いずれもオルト系統だ。
加速は、物質に触れずに押し引きする性質を持つ。
修復は、物体を以前の形状へ戻そうとする性質を持つ。
この二つを混合形成すると、押し引きを規則的に反復させることができる。
デュナミスの自動化は、この仕組みによって実現されていたらしい。
混合形成は、そもそも膨大なデュナミス量を持つ者でなければ扱えない。
だが、その応用幅は戦略上、極めて大きい。
講習の随所で、講師たちは当たり前のように混合形成を披露していた。
Tier2デュナトスとは、そういう存在なのだ。
続いて演習に入る。
五人の講師は十五棟をローテーションし、期間中に一人あたりおよそ三名と演習を行う。
初日の午前、赤誠棟に来たのは読心のタルホァだった。
読心──
つまり、思考を読まれる前提で臨まなければならない。
私は、自己の正体だけは悟られぬよう、思考制御を徹底する。
大広間に全員が集まる。
「演習は、挑戦できる人数が限られています。
そのため、意思表明した者から選びます。
では、タルホァさんとの演習を希望する方は挙手を」
教官の言葉と同時に、私は即座に手を挙げた。
「アテラ、それ見えてないかもね」
メイがそう言って、私の腕を持ち上げる。
「……はい、そちらの方。……ああ、アテラか」
教官は、問題児を見るような目を向けてきた。
Tier2に勝てるとは思っていない。
だが、講習にテストがない以上、成績を得るには演習に出るしかない。
それに、最初の演習ほど手を挙げる者は少ない。
負け前提でも、選ばれやすいのは今だ。
「相変わらずだね。戦闘力ゼロのアテラが、演習で何をするのか楽しみだよ」
チターナがそう言う。
周囲はざわついていた。
無理もない。私をよく知る者ほど分かっている。
私は、悪名ばかりが先行し、本当に“何もできない”存在なのだから。
「そうですね。見ていてください」
私はそう答え、タルホァの前へ進み出た。
「はじめまして。アッティラ・ラシュターナと申します」
「あら……こんな小さな子は初めてね」
タルホァは私をじっと見つめる。
思考を読もうとしているのだろう。
「ふふ、ずいぶん警戒しているのね」
何かを期待している視線だった。
私は、かつて親殺しに遭った自分の境遇を、静かに思い描いた。




