99.才覚
勉強プログラムは、思いのほか単調で日常的だった。
競争プログラムのような緊張感もなく、おおよそ一ヶ星が経過する。
『コンプライアンス』最終日は、午前中にテストを受けると即解散。
その後、二日ほどの休暇を挟んで次のプログラムへ移行する。
解散したその夜、さっそく結果がアナウンスされた。
成績上位者には、リーネ、カルテイン、サミャーの名が並び、私は四位だった。
そして翌日の正午、次プログラムの説明が行われる。
競争か、開発か──
その内容次第では、あのセシザとの全面衝突が現実になる可能性もある。
「みなさん、デュナメイオンも残り二プログラムとなりました。
先の開発プログラムを通じ、デュナトスとしての心構えは十分に理解いただけたと思います」
「今回は、実際に長年デュナトスとして活動してきた方々から、生の声を聞いていただきます」
「Tier2デュナトスを五名招いています。
みなさんもご存知の、二つ名を持つ著名人です。
読心のタルホァ、天征のスクハ、神杖のナグジャ、食歳のベーリン、反象のラダ」
「五日間の講習、五日間の演習、四日間の討議を経て評価を行います。
プログラム名は『才覚』。
Tier2にふさわしい才能を示すことが、勝者の条件です」
「なお、本プログラムは開発扱いとし、許可なき戦闘行為は禁止します」
説明が終わると、私たちは共通部屋へ戻った。
「リーネがここまでテスト強いなんて、デューナメース職員になれるんじゃない?」
チターナが真っ先にそう言う。
国家が治安を、宗教が生の意味を、企業が富を担うとするなら、デューナメースは“思想や夢の実現”を担う組織だ。
国家・企業・宗教だけでは、個人の思想や夢を支える基盤が脆弱だった。
そこに台頭したのが、本来は異能研究機関にすぎなかったデューナメースである。
太古には小さな秘密結社として始まり、
古代では国家と手を組み生き残りを模索し、
現代では企業群とうまく結びつき、国家以上の支持を獲得した。
今やデューナメース職員は“世界の官僚”とまで呼ばれている。
それほどまでに、彼らが率いる世界連盟は国際情勢を握っているのだ。
「リーネは、デューナメース職員を目指しているんですか?」
「……うん。戦闘や未開開発を強制されないって聞くし、安全そうだから」
デューナメースは、企業の有力者が理事会に名を連ねている。
そのため、危険な実務は多くが企業側に回される。
「なるほど。
なら『ヴィスパダト』や『アーマン・バラア』、『イデア』などの大手企業はどうですか。
バックオフィスは比較的安全だと聞きます」
「あ、アテラはそっちか」
ムイがそう言い、私は頷いた。
「今は資本競争が激しくて、未開開発が一大事業になってるって。
だから企業はどこも必死らしいよ」
「そうそう。だから就職トレンドはデューナメース職員か、三大企業グループ外。
……まあ、買収されたら意味ないけどね」
チターナの言葉に、ムイも同意する。
未開開発は最も花形で、最も危険な仕事だ。
かつては『アーマン・バラア』の専売だったが、
今では『イデア』も『ヴィスパダト』も参入し、競争は熾烈を極めている。
「俺はメルアラヌかイアシャかな」
「アタシはイアシャ志望」
「お、奇遇じゃん」
ここで初めて、メイとムイが同じ志望だと知った。
進路の話は、意外なことにしてこなかった。
イアシャは傭兵企業で、
デューナメースや三大企業の影響下にない分、任務の自由度が高いという。
「アテラはどこ志望?」
リーネが尋ねてくる。
「『イデア』を第一志望にしました。
三大企業の中で、今いちばん力を持っているのはどこでしょうか」
「勢いは『ヴィスパダト』。Tier1デュナトスを四名抱えていて、物量は随一。
『アーマン・バラア』は資金力と未開開拓の歴史が強み。
『イデア』は資本では劣るけど、政治力が抜群です。
官僚育成や国家補佐で、各国中枢に食い込んでいます」
ウイからの補足情報だ。
──やはり『イデア』。世界の仕組みを握る側に近い。
「三大企業は過酷そうだから、気をつけなきゃね」
「アテラなら大丈夫そう。
みんな進路バラバラだね。
私は『ヴィスパダト』系、ルレウは『アーマン・バラア』系だし。
離れても連絡取り合おうよ」
チターナの言葉は少し気が早い。
だが、あと一ヶ星もすれば、こうして皆で雑談する時間も失われる。
信用は築けただろうか。
デュナメイオンは、横の繋がりを作るには最適な場だった。
チームアテラの皆と、
いつかポリコレ世界の改革が必要になったとき、
敵として刃を向け合わずに済むことを、私はただ願っていた。




