9.最初の覚醒
「うん、やるー」
内心、私はひどく興奮していた。
その高揚は、幼い頃大きなおもちゃを初めて買ってもらった時ほどに。
「エンニちゃん、内緒にできる?」
「うん。おばあちゃんとエンニの、ないしょだよ」
饒舌だろうが何だろうが構わない。
とにかく、信用を得るのだ。
「デュナミスはね、デュナミスを受けて、覚醒するのよ」
そう言って、ノアテラは私に白い霧をかけた。
霧に包まれ、視界が真っ白になる。
やがて霧が晴れた。
ノアテラは、デュナミスを使ったためか、少し息を切らしている。
「はぁ…エンニちゃん……鏡を見て…ごらん…」
そう話して、書斎の端にある鏡を指さした。
そう言って、書斎の端にある鏡を指さした。
振り向くと、鏡の中には――
猫耳の、五歳くらいの男の子が映っていた。
「しゅ……しゅごい……」
これは、取り繕えない本心だった。
なぜならそこには、今の私が欲していた
『五歳以上』『男』『自然な仕上がり』という完成形が、叶ってしまったからだ。
先ほどの眼鏡で、
女であることがポリコレスコア上の加点――つまりハンディキャップであると理解した。
私はポリコレスコアに頼って生きるなんてごめんだ。
もし『女であること』が特権だと決めた誰かがいるのなら、
そんな価値観は吐き捨てたい。
その感情すら汲み取ったかのような結果の、
あまりの完成度の高さに、ノアテラを疑いたくなるほどの満足感を覚えた。
鏡越しに自分をじっと見つめていると、
呼吸を整えたノアテラが、にこやかに言った。
「エンニちゃん、強くイメージしてみて。
自分の、なりたい姿。なれると思える姿。
そして、今の自分と違うところ」
……私は、何になりたいのだろう。
お母さん?
それは私の好む手段のこと。
ポリコレを打ち砕く?
それは一つの道。
では、私は何だ。
神か、支配者か、自由な思想の旅人か。
……今は分からない。
仮に
「世界を、私がしっくりくる形へ変えるためになるべき私」
と定義するなら――
それはきっと、『変革者』なのだろう。
強い自分を思い描き、
今の自分に足りないものをイメージする。
言われた通りに。
「すごく頑張ってるね、エンニちゃん。
その調子で、今度はおばちゃんに、さっきの変身をさせるイメージをぶつけてみて」
しまった。
どうやら、考えが顔に出ていたらしい。
よ、よし……。
こうなったら、恥を忍んで言われる通りにする。
「んんん……んー!」
とにかく、イメージに集中する。
前に、外に、押し出すように。
目を開けると、ノアテラの前に小さく白いもやが生まれていた。
ノアテラはそれを受けて、にこにことしている。
もう一度、目を閉じて集中を続けた。
「もう、大丈夫だよ」
目を開けると、もやは消えていた。
ノアテラのときのようなもやではなかったが、
彼女の顔は半分ほど若返っている。
人間で言えば、四十歳前後といったところだろうか。
ノアテラは鏡を見て、声を弾ませた。
「すごいじゃない! できたねえ、エンニちゃん!」
少し大きな声に、私はびくっとする。
――覚醒、か。
一度で完全に覚醒するのか、
それとも、何度も修練を重ねるものなのか。
疑問は尽きない。
「やったー!」
とりあえず、今は喜びを優先した。
同時に、軽い息苦しさ――運動後のような感覚も覚える。
それに気づいたのか、
ノアテラは何も言わず、静かにニコニコしている。
振り返ると、
鏡の中の五歳の私も、同じようにニコニコしていた。




