追放された王女は世界初のコンビニを開きます 〜辺境村から始まる夜営業無双〜

第2章 村に根づく便利店

第27話 嫌がらせの影

「リリアーナさん、申し訳ございません」

朝の仕入れに向かった私を、いつもの卸業者マルコが申し訳なさそうな表情で迎えた。

「どうされました？」

私が心配そうに聞く。

「実は...今月から価格を2割上げさせていただくことになりまして」

「2割？」

私が驚く。

「突然すぎませんか？」

「私も困っているんです。でも、上からの指示で...」

マルコが歯切れ悪く答える。

『突然の価格改定...何かおかしい』

私の経営者の勘が警告を発している。

◇◇◇

「具体的には、どれくらいの値上げでしょうか？」

私が冷静に確認する。

「小麦粉が1袋12銅貨から15銅貨に」

「肉類が1キロ20銅貨から24銅貨に」

「調味料も軒並み2割増しです」

『全商品一律2割増し...不自然すぎる』

「理由をお聞かせください」

「それが...『市場の変動により』としか聞かされていなくて」

マルコが困った顔をする。

「私たち小さな業者には、詳しいことは教えてもらえないんです」

『情報統制されてる』

何か大きな力が働いている予感がした。

◇◇◇

店に戻って、ミアとロウに相談した。

「2割の値上げは痛いですね」

ミアが心配そうに言う。

「このまま商品価格に転嫁したら、お客さんが離れちゃうっす」

ロウも不安そうだ。

「でも、利益を削って対応するにも限界がある」

私が悩む。

『おかしい...何か裏がある』

「他の業者にも確認してみましょう」

私が決断する。

「複数の業者が同じタイミングで値上げしているなら、何らかの圧力がかかっている可能性が高い」

◇◇◇

午後、別の卸業者を回ってみた。

「やはり2割値上げですか」

野菜卸のトニーも申し訳なさそうに頭を下げる。

「申し訳ございません。私たちも困っているんです」

「どこの業者も同じなんでしょうか？」

「はい。昨日、突然通達が来まして」

『通達？誰からの？』

「その通達は、どちらから？」

「それが...直接は言えないのですが」

トニーが周りを見回してから小声で言う。

「『王都の大手から圧力がかかっている』という噂です」

『やはり背後に大きな力が』

◇◇◇

その夜、予想もしなかった来客があった。

「すみません、営業中にお邪魔します」

若い男性が店に入ってきた。

「いらっしゃいませ」

ミアが応対する。

「実は、リリアーナさんにお話があって来ました」

「私に？」

「はい。ゼルドと申します。商人をしております」

『ゼルド...聞いたことのない名前』

「どのようなご用件でしょうか？」

「実は、今日の仕入れ価格の件で情報があります」

私の目が鋭くなる。

◇◇◇

「情報と言いますと？」

私が詳しく聞く。

「大手商会が圧力をかけてるらしいんです」

ゼルドが声を潜める。

「大手商会？」

「はい。ヴェルナー商会という王都最大の商会です」

『ヴェルナー商会...』

その名前に聞き覚えがあった。

「なぜ圧力を？」

「あなたの店が話題になりすぎて、既存の商習慣を脅かしているとか」

『夜営業が脅威と見なされている』

「特に、農家との直接契約や効率的な仕入れシステムが問題視されているようです」

◇◇◇

「なぜそんな詳しい情報を？」

私が疑問に思う。

「実は、私も同じような目に遭ったことがあるんです」

ゼルドが苦い表情を見せる。

「革新的な配送システムを導入したら、突然仕入れ先から取引を断られました」

「同じ手口ですね」

「はい。でも、私は諦めませんでした」

ゼルドの目に強い意志が宿る。

「独自のルートを開拓して、今では以前より良い条件で取引しています」

『この人は味方になりそう』

「つまり、今回も対抗策があるということですか？」

「はい。一緒に戦いませんか？」

◇◇◇

翌朝、ゼルドと本格的な対策会議を開いた。

「まず、複数の仕入れルートを確保しましょう」

ゼルドが提案する。

「一つのルートに依存していると、こういう攻撃に弱くなります」

「具体的には？」

「私が開拓した独自ルートがあります」

「王都を通さない、地域密着型の流通網です」

『王都を迂回する流通網』

「それは頼もしいですね」

「それと、近隣村との共同購入も有効です」

「共同購入？」

「複数の店舗で大量購入すれば、単価を下げられます」

『スケールメリットの活用』

◇◇◇

「共同購入の具体的な方法は？」

私が興味を示す。

「まず、隣村の店舗と連携します」

ゼルドが説明する。

「まとめて注文することで、1件当たりの購入量を増やす」

「すると、卸価格が下がるんですね」

「そうです。それに、運送コストも分割できます」

『Win-Winの関係』

「早速、隣村の店主に相談してみましょう」

「私が仲介しますよ」

ゼルドが申し出てくれる。

「人脈は豊富ですから」

『頼りになる味方を得た』

◇◇◇

午後、さっそく隣村の店主3人が集まってくれた。

「皆さん、同じ問題に直面されているんですね」

私が確認する。

「はい。突然の値上げで困っています」

「一人では対抗できませんが、みんなで協力すれば」

「共同購入、やってみましょう」

全員が賛成してくれた。

「それでは、具体的な計画を立てましょう」

ゼルドが仕切ってくれる。

「週単位で必要量を集計して、まとめて発注する」

「配送も効率化して、コストを削減」

『共同戦線の結成』

◇◇◇

一方で、直接生産者との契約も拡大した。

「トーマスさん、他の農家さんも紹介していただけませんか？」

私がお願いする。

「もちろんです。皆、困っていますから」

「中間業者を通さずに、直接取引したいという農家はたくさんいます」

『中間業者排除で双方にメリット』

「明日、5軒の農家が来てくれることになりました」

「ありがとうございます」

私が感謝する。

「でも、これで仕入れ先が大幅に増えますね」

ミアが心配する。

「管理が大変になりそう」

「それも含めて、システム化していきましょう」

◇◇◇

新しい仕入れシステムの構築に取りかかった。

「仕入れ先をA、B、Cの3グループに分類」

私が説明する。

「Aグループ：共同購入ルート」

「Bグループ：直接契約農家」

「Cグループ：独自開拓ルート」

「3つのルートでリスク分散するんですね」

ゼルドが理解する。

「そうです。一つのルートが使えなくなっても、他でカバーできます」

『三重の安全網』

「これなら、どんな圧力にも負けません」

◇◇◇

一週間後、新システムの効果が現れ始めた。

「信じられません」

私が計算結果を見つめる。

「どうしたんですか？」

ミアが心配そうに聞く。

「コストが下がったの」

「下がった？」

「共同購入で単価が2割削減」

「直接契約で中間マージンが3割削減」

「独自ルートは従来価格で安定供給」

『ピンチがチャンスになった』

「結果的に、以前より安く仕入れられるようになりました」

◇◇◇

「つまり、ヴェルナー商会の嫌がらせのおかげで」

ゼルドが皮肉っぽく言う。

「より良い仕入れシステムを構築できたということですね」

「皮肉なものです」

私も苦笑する。

「圧力に負けるどころか、より強くなってしまった」

「まさに『逆転の発想』ですね」

『敵の攻撃が成長の糧に』

「でも、油断は禁物です」

ゼルドが警告する。

「ヴェルナー商会は諦めないでしょう」

「次の手を打ってくる可能性があります」

◇◇◇

その夜、価格据え置きを発表した。

「お客様への価格転嫁は最小限に抑えます」

私が宣言する。

「本当ですか？」

常連のハンスが驚く。

「他の店は軒並み値上げしてるのに」

「お客様に迷惑はかけません」

私が約束する。

「それが私たちの方針です」

『顧客第一主義』

「ありがたい」

客たちから感謝の声が上がる。

「やっぱりここの店は違うな」

「信頼できる」

◇◇◇

翌日、予想通りの結果が現れた。

「他店から客が流れてきてるっす」

ロウが報告する。

「値上げした店から、価格据え置きの私たちの店に」

「売上が2割増加しています」

ミアも嬉しそうに報告する。

『顧客の信頼が売上につながった』

「ヴェルナー商会の策略が裏目に出ましたね」

ゼルドが満足そうに言う。

「彼らは自分たちの首を絞めただけでした」

◇◇◇

一ヶ月後、思わぬ展開があった。

「リリアーナさん、お疲れ様です」

マルコが店を訪れた。

「マルコさん、どうされました？」

「実は...謝りに来たんです」

彼が頭を下げる。

「先月の値上げの件で」

「圧力をかけられて、仕方なく値上げしましたが」

「結果的に、お客さんを失ってしまいました」

『圧力をかけた側も苦しんでいる』

「私たちも被害者だったんです」

マルコが苦しそうに言う。

◇◇◇

「それで、お願いがあります」

マルコが続ける。

「あなたたちの共同購入に参加させてもらえませんか？」

「共同購入に？」

「はい。ヴェルナー商会の圧力に屈するのはもう嫌なんです」

『敵方からの寝返り』

「もちろんです。仲間は多い方が良い」

私が歓迎する。

「ありがとうございます」

マルコが安堵の表情を見せる。

「これで、またあなたたちと取引できます」

◇◇◇

その日の夕方、ゼルドが興味深い情報を持ってきた。

「ヴェルナー商会が苦戦しているようです」

「苦戦？」

「価格操作に参加しなかった業者が増えて、計画が破綻したみたいです」

「私たちの対抗策が成功したということですね」

「それだけでなく、他の地域でも同様の動きが広がっています」

『反ヴェルナー連合の形成』

「あなたたちの成功事例が、他の商人にも勇気を与えたんです」

「そうなんですか」

「独自ルート開拓や共同購入の動きが、各地で始まっています」

◇◇◇

「つまり、ヴェルナー商会の独占体制が揺らいでいるということですか？」

私が確認する。

「そうです。多様な流通ルートができることで、一社による市場支配が困難になりました」

ゼルドが分析する。

「健全な競争環境が生まれつつあります」

『市場の民主化』

「それは素晴らしいことですね」

「あなたたちが火付け役になったんです」

「光栄です」

私が誇らしく思う。

◇◇◇

その夜、スタッフと成果を振り返った。

「嫌がらせのおかげで、かえって強くなりましたね」

ミアが感慨深く言う。

「ピンチをチャンスに変えるって、こういうことっすね」

ロウも学んだようだ。

「危機は成長の機会なのよ」

私が教訓を語る。

「大切なのは、諦めずに解決策を考えること」

『逆境を力に変える精神』

「そして、一人で戦うのではなく、仲間と協力すること」

ゼルドが加わる。

「今回は本当に勉強になりました」

◇◇◇

翌朝、隣村の店主から感謝の手紙が届いた。

「共同購入のおかげで、売上が回復しました」

「ヴェルナー商会の圧力を跳ね返すことができました」

「リリアーナさんのリーダーシップに感謝します」

『仲間からの信頼』

「みんなで力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられますね」

ミアが感動している。

「そうね。一人の力は小さくても、みんなで協力すれば大きな力になる」

私が同感する。

◇◇◇

一人になった私は、この一ヶ月を振り返っていた。

突然の仕入れ価格急騰から始まった危機。

しかし、それを機に新しい仕入れシステムを構築し、

ゼルドという頼れる仲間を得て、

共同購入による地域連携を実現し、

結果的に以前より強固な経営基盤を築くことができた。

『嫌がらせの影が、成長の光となった』

◇◇◇

窓の外を見ると、ゼルドの配送車が新しい商品を運んできている。

3つの仕入れルートが安定稼働し、

価格競争力も向上し、

顧客満足度も上がった。

『圧力に負けるどころか、より強くなった』

ヴェルナー商会の思惑とは正反対の結果になった。

◇◇◇

夜営業の準備をしながら、私は次なる挑戦を考えていた。

今回の経験で学んだのは、

危機をチャンスに変える発想力と、

仲間との協力の重要性。

『これからも、どんな困難が待ち受けているかわからない』

でも、今なら何が来ても大丈夫な気がする。

強固な仕入れシステム、信頼できる仲間、そして何より、

危機を乗り越えた自信がある。

『嫌がらせの影は、結果的に私たちを強くしてくれた』

感謝すべきかもしれない。

そんなことを考えながら、私は今夜も店の扉を開けるのだった。