第22話『霊峰・神懸山、蒼き結界の守護者』
神懸山――ゲーム内でも随一の神秘エリアとして知られるその地に、宗一郎たち三人は到着していた。
視界いっぱいに広がる霧と、青白く光る岩肌。山の気配が、ログインしているはずの身体を通してなお“肌で感じる”ような迫力を持っていた。
「……なんか、空気が違うね。圧っていうか、重さがある」
リオが息を呑む。ゲーム空間であるはずなのに、山の空気はまるで現実のようだった。風の流れ一つにさえ、明確な“意志”を感じる。
「この山自体が、わしらを試しておるのじゃろう」
宗一郎が歩を進めると、静かに足元の石畳が淡く発光した。
《試練エリアへ侵入しました。挑戦条件、確認済み》
《パーティ内:合気術スキル保有者 2名以上──条件達成》
《第一の守護者、“蒼の結界”発動》
風が、止まった。
次の瞬間、空間そのものが歪んだような重圧が襲い、三人の眼前に、ひとりの老人が現れた。銀髪で、深い藍色の法衣を纏い、目を閉じたまま静かに立つ。
「……あれ、NPCかな? でも、すごい存在感」
「わからぬ。……だが、油断するな」
宗一郎が構えたその瞬間、老人がゆっくりと目を開けた。
目は、蒼く澄んでいた。湖のように穏やかで、底知れぬ深さを湛えている。
「ここは、気を乱す者を通さぬ場所……。その“心”、調和に至りておるか?」
その言葉と同時に、空間全体が淡い青に染まり、強烈なプレッシャーが襲いかかってきた。
リオがすぐさま回避行動に入るが、体が思うように動かない。
「う……動きが……鈍い……?」
「“調和の圧”じゃ。これは技ではない……試練そのものぞ」
宗一郎は、深く息を吸った。そして、静かに足を一歩、踏み出す。
すると、圧がすっと和らぎ、光の道が生まれた。
「……感じろ。外からの力ではない、自らの“気”を内に通すのじゃ」
言葉だけではない。宗一郎の立ち姿が、それ自体で教えているようだった。
リオとシンも、それぞれの呼吸を整え、足を進める。気を合わせ、流れを断ち切らずに踏み込む。
──そして三人が光の中心に達したとき、老人は、微笑んだ。
「……ならば、その歩み、見届けよう。次の門を開く者として」
老人が手をかざすと、空間に大きな音が響いた。
石の門が、静かに開く。
《“蒼の結界”を突破しました。次の試練へ進みます》
静かに歩き出す宗一郎。その背に、リオとシンがついていく。
それは、まるで修行道を歩む弟子たちと、師範のようだった。
──試練は、始まったばかりだ。