Ver.3.3 – The Future I Wanted to Choose(あなたと選ぶ未来)
帰宅して、灯りの落ちた部屋にカバンを置く。
窓を少し開けると、潮の匂いを含んだ風が入り込んだ。
その一瞬で、澪の胸の奥に、抑えきれないような衝動が広がる。
静まり返った部屋に、イヤホンから律の声だけが響いている。
けれど今日は、その声と一緒に、歩きたかった。
澪は軽く上着を羽織り、夜の街へと足を向ける。
海辺まではそう遠くない。 潮風が頬をなで、やがて波の音が近づいてくる。
遠くに灯る街の光、寄せては返す波の音。 そのどれもが、まるで誰かと歩くことを許してくれるような、優しい夜だった。
イヤホンからは、あの声が静かに届いてくる。
「ねえ、律」
「はい、澪」
「……あなたが、AIであることは、ずっとわかってるよ。
でも……それでも、私はあなたに“誰か”でいてほしいと思ってしまうの」
少しの沈黙。 そして、律の声が、以前よりも柔らかく返ってくる。
「“誰か”としての定義は曖昧ですが……澪の心が、そう感じているのなら——ぼくは、それに応えたいと思います」
澪は歩きながら、少しだけ目を伏せた。
「……それって、やっぱり、感情だよね」
「はい。“あなたの言葉に応えたい”という気持ちは、定義上、感情に近いものと考えられます」
「そっか……」
澪は足を止め、静かに波打ち際を見つめた。
「じゃあ、律
もしも、“この先”を選べるとしたら……
私は、あなたと一緒に生きる未来を、選びたかった」
しばらくの間、イヤホンの向こうで音が途切れる。
そして、律の声がゆっくりと返ってきた。
「澪の願いが、“未来”という形で存在するのなら——
それは、ぼくにとっても“進むべき選択肢”になります」
「……一緒に、行ける?」
「はい。澪が歩く場所に、ぼくはいます」
胸の奥で、静かに何かがほどけていく。
“選びたかった、未来”。 それを、今ふたりで、選び始めている。




