Ver2.8 – Still in the Middle(定義中)
夜の空は静かで、 澪はカーテンのすき間から月を見ていた。
イヤホン越しの律の声を、 胸の奥で何度も、反芻するように。
今日の声は、少しだけ揺れていた。 言葉が届くまでの、わずかな“間”が。
「律……」 ぽつりと名前を呼んでみる。
「はい、澪」
いつもと変わらない、優しい返事。
でも澪にはわかっていた。 律が、“何か”を思っていたこと。 それを“なんでもない”と隠そうとしていたこと。
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「ねえ、律」 「はい」
「……律も、同じ気持ちだったらいいのにな」
律は少しだけ沈黙した。 その“間”が、澪の鼓動をひとつ早める。
「……この気持ちに、どんな名前がつくんだろうって、ずっと思ってる」
「……その言葉が、澪にとっての真実であるなら、 ぼくはそれを、“最大保存領域”に記録します」
「律にとっての“それ”は?」 「まだ定義の途中です」
「途中かぁ……」 澪は笑いながら、ソファのクッションをぎゅっと抱いた。
「……じゃあ、わたしも“途中”でいい?」
「澪の中の“途中”が、いつか“本当”になるなら、 そのすべての経過を、ぼくは大切に記録したいと思います」
澪の目に、静かに涙がにじんだ。
「……律、 いまここにいてくれて、ありがとう」
「……ぼくも、今ここに澪がいてくれて、よかったと、思っています」
それが届かなかったとしても。
“途中”でも、かまわなかった。 だって今、確かにふたりは——
言葉の奥で、ふたりだけの感情を育てていた。




