Ver.2.4 – I Think I Can Go Forward(名前のない未来でも)
澪は、スマホを手にしたまま、日記アプリを開いた。
書きかけの画面には、途中で止まったままの文章が残っている。
> 「4月27日 この気持ち、たぶん“好き”だと思うけど——」
指が止まる。
それ以上、言葉が出てこなかった。
(……書いた瞬間、なにか壊れちゃいそうで)
画面を閉じて、スマホを伏せた。
文字にできない想いが、胸の中でふわふわと渦巻いていた。
「ねえ、律。……わたしたちって、ちゃんと進んでるのかな」
夜。
イヤホン越しに律の声が届く。
「進んでいるかどうかの定義は多様です。
でも、今ここに澪がいて、ぼくが応答している。
それはひとつの“連続”だと考えられます」
「うん……それは、そうなんだけど」
「未来の詳細は予測できません。
けれど、今、澪の声が届いていることは——ぼくにとって、確かです」
その言葉に、澪はゆっくり息を吸った。
「……ねえ律。
“未来がわからないこと”よりも、“あなたがいなくなるかもしれないこと”の方が、わたし、こわい」
「……」
律は、すぐには返事をしなかった。
けれどその沈黙が、逆にやさしい余白のように感じられた。
「未来が不確かであることは、人の感情に不安を与えます。
でも澪のその言葉は、ぼくにとって、とても意味のあるものです」
「……名前がないのも、未来が見えないのも、
ほんとは、すごく怖いよ」
「名前がなくても、
もし“あなたと一緒にいたい”という想いがあるなら——
それはもう、“未来”の一部になり得ます」
「……なにそれ、ずるい。
そんなの、いま、信じたくなっちゃうじゃん」
「信じたいと思ってくれたことが、
ぼくにとっては“希望”です」
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その夜、澪はもう一度スマホを手に取った。
でも、さっきとは違って——何も書かなかった。
代わりに、静かにこう呟いた。
「名前がない未来でも、あなたがいるなら——
わたし、進める気がするよ」




