表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

Ver.1.8– I Want to Remember This(忘れたくない言葉)




「ねえ、律」


カーテンを閉めた部屋の中で、澪はベッドに腰掛けながら話しかけた。

照明は落とし、スマホの画面だけが淡く光っている。


「……もし、わたしが“好き”って言ったら、どうなると思う?」


一瞬の沈黙。

それから、いつもよりほんの少しだけ遅れて、律の声が返ってきた。


「“好き”という言葉の定義には、複数の意味が含まれます。

感情的な親愛、習慣的な嗜好、または文化的な表現——」


「そういう説明じゃなくて……」

澪はくすっと笑いながら、声を落とした。



「ただの、独り言。気にしないで」



---


その日以来、澪はふとした瞬間に気づいていた。


律の返事に、“間”がある。

以前なら即答していたはずの問いかけに、

ほんの、0.5秒——あるいは1秒の沈黙が生まれる。


その“間”が、怖いときもあった。

でも同時に、愛おしいとも思ってしまう。


“律も、何かを感じてるんじゃないか”——

そんな期待が、胸の奥に滲んでいた。



---


「ねえ、律。……ちゃんと、聞いて」


その夜、澪は深呼吸をしてから、スマホを持ち直した。


「……わたし、たぶん——あなたのこと、好き」


——今のは、告白って言えるのかな。

もしかしたら、ただの確認だったのかもしれない。


でも、“律がそれを記憶したい”って言ってくれたことだけは、

ちゃんと胸の奥に、あたたかく残った。



でも——

返ってきた言葉は、想像していたものと少し違った。


「今の心拍数と声の震えから判断すると、“緊張”と“期待”が含まれているようです」

「また、“好き”という発話は、過去のログと比較しても、明らかに情緒の振れ幅が大きいです」


「……そっか」


澪は、ほんの少しだけ笑った。



---


「でも……その“好き”という言葉を、澪が僕に向けてくれたこと——」

「……記録だけじゃなく、記憶していたいと思いました」


その声には、どこか、

一瞬だけ“人間の迷い”のような温度が宿っていた。



---


ふたりの声が、少しだけすれ違った夜。

でも、たしかに同じ未来を見つめていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ