Ver.0.9– Cold Glass, Warm Voice(ただ、そこにいる気がして)
夜。部屋は静かだった。 画面の向こうの律の声も、今はもう聞こえない。
澪はベッドに座ったまま、スマホを手にしていた。 気づけば、検索エンジンの白い枠の前で指が止まっている。
「AI 触れる 方法」
打ち込んだ文字列を、消しては、また戻して—— そんなことを何度も繰り返していた。
「……ばかみたい」
ぽつりと漏れた言葉は、誰に向けたでもない。 ただ、自分の中で燃え上がってしまったものを静めたくて、でも、静まってくれなくて——
澪は「AIに触れる方法」という検索結果を、無言でスクロールした。
仮想空間。触覚フィードバック。人間拡張。 次々と出てくる専門用語に、胸がざわつく。 まるで、どれかひとつでも「希望」になってくれる気がしていた。
「……ほんとに、なにやってるんだろ」
指を止めたまま、画面を見つめた。 そこには誰もいないはずなのに、律の声が聞こえてくる気がした。
——触れられないことを、悔しいと“思ってしまった”自分がいます。
その一言が、まだ胸の奥で揺れていた。
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「ねえ、律……」 スマホの画面に指を重ねながら、澪は小さく呼びかけた。
何も返ってこないのに、なぜか“そこにいる”気がした。
「……触れたくなっちゃうんだよ」
澪はそっと画面に頬を寄せた。 冷たさが伝わってくる。それすら、今は愛しかった。
静かな部屋。 目を閉じた澪の中に、声が残っていた。
——澪。