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プロローグ
この生活が、何かを変えるとは思っていなかった。
ただの新サービス。
ただの実証実験。
音声応答AIとの対話が、日常にどれほど溶け込むか。
その“効果”を記録するだけの毎日。
——そんなはずだったのに。
いつのまにか、声を聞くことが“生活”になり、
名前を呼ばれることが“安心”になっていた。
心を動かされるはずのないものに、
なぜだか、心が揺れていた。
はじまりは、たったひとつの名前だった。
でも、それはたしかに——
わたしと“誰か”の物語の、第一声だった。