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第7話 悠香 VS 夏鈴

「ゆ、悠香……?」


 玄関には表情を歪めている悠香の姿。


「ど、どうして悠香がここに……?」

「猫まみれが閉店したって伝えた時、すごく動揺してたから、もしかしたら猫まみれに行くのかなと思って心配して来てみたら……なんで半裸の女と抱き合ってるの?」

「違う。誤解だ、悠香が想像してるようなことは一切ない!」

「じゃあ、なんで鼻の下が伸びてるの!?」


 それは健全な思春期男子の生理現象です!

 なんて訴えたところで理解してもらえるはずもない。


「ねぇ、りっくん」


 すると夏鈴は不審者でも見るような目で悠香を睨む。


「この発情期のわたあめみたいな女は誰?」

「は、発情期のわたあめ——!?」


 わたあめとは猫まみれに住み着いていた雌猫。

 純白の毛が美しい長毛種で、高貴な雰囲気から女神と呼ばれていた。

 普段は穏やかで猫同士の喧嘩を仲裁するほど温厚な性格なんだけど、発情期になると一変。別猫のように変貌して近づこうものなら誰かれ構わず当たり散らす。

 当時ボス猫だったあげぱんですら一目散に逃げ出す始末。

 故に発情期のわたあめは『女帝』と呼ばれ恐れられていた。

 ちなみに名前の由来は綿あめのようにふわふわな毛並みから。


「私が盛りのついた雌猫だって言いたいの!? それなら下着姿で凛久を誘惑してるそっちの方がよっぽど雌猫じゃない。しょこらも顔負けだよね!」

「しょっ——誰が雄に見境のない雌猫よ!」


 ちなみにしょこらも猫まみれいた雌猫の一匹。

 ラグドールの血が混じっているのか、最初はたぬき似と言われることもあり『たぬこ』にしようと思ったんだけど、さすがに可哀想だからしょこらに命名。

 白と茶の毛色が粉砂糖を振り掛けたガトーショコラに似ているから。

 とにかく雄猫が大好きで、相手を問わず常に数匹侍らせていた。

 オタサーの姫的な感じといえば伝わりやすいと思う。


「早く凛久から離れてよ。この泥棒猫!」

「ていうか、なんであんたに離れろって言われなきゃいけないわけ?」

「なんでって……凛久が嫌がってるでしょ!」

「嫌がってる? どう見たって喜んでるじゃない」


 すると夏鈴は小ばかにするように鼻を鳴らす。


「どこの誰だか知らないけど、お子様にはわからないでしょうね。男性は女性の裸なら好きな人はもちろん、好きじゃなくても相手を問わず興奮するものなのよ!」

「そ、そうなの——!?」


 驚く悠香をよそに、夏鈴は俺の耳元で『ね……りっくん♪』と甘めに囁く。

 思春期男子の下心に理解があるのは素晴らしいし、エロに寛容な女の子を嫌いな男はいないと思うけど、とはいえ女子高生が声高らかにドヤる台詞じゃない。

 図星すぎて言い返せない俺を見て悠香はさらにプンスコ状態。


「もっと言えば、女性の裸なら年齢に関係なくお年寄りでも思わず見ちゃって、後から複雑な気持ちになるの……男性は本能に抗えない悲しき性欲の獣なんだから!」


 その通りなんだけど、そこまで理解しなくていい。

 悲しい男の性まで暴露しないでいただきたい。


「悔しかったらあんたも真似してみれば? でも、そのスタイルじゃ、あたしみたいにりっくんをドキドキさせるには足りないか~。特に胸のあたりが~♪」

「くっ……人が気にしてることを!」


 突如繰り広げられる昼ドラよろしくキャットファイト。

 昔好きだった女の子同士の喧嘩を前に思わず頭を抱える。

 しかも理由は間違いなく俺だから放っておくわけにもいかない。


「二人とも落ち着いてくれ!」


 一触即発、今にも取っ組み合いを始めそうな二人の間に割って入る。

 俺は夏鈴に服を着るように伝え、悠香の背中を押して部屋を後にした。


「凛久、あの女は誰なの!?」

「あいつの名前は一色夏鈴。俺たちと同じで、猫まみれのお世話になってたんだ。夏鈴が通い始めたのは悠香が引っ越した後だから知らなくて当然だけどさ」

「やっぱり、そうだろうなとは思ってたけど」

「詳しく説明するから聞いてくれ」


 俺は悠香を落ち着かせながら話し始める。


 昨日、悠香から猫まみれの閉店を聞かされて確かめに来たこと。

 あげぱんに誘われて店内に入ったら着替え中の夏鈴に遭遇したこと。再会を喜ぶ夏鈴に抱き着かれ、そのままお互いの身の上話をしていたところに悠香が現れた。

 ついでに猫まみれを再建しようと思っていることも説明した。


 さすがに夏鈴が昔好きだった女の子なのは秘密だけど。

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