第19話 日焼け止め
「こんなところかな?」
「そうだな。足りない物あればまた借りに来よう」
海水浴場に着くと、俺と夏鈴は必要な物を借りるため海の家に来ていた。
ビーチパラソルやサマーベッド、他にもレジャーシートやクーラーボックスなど。
菫さんの車はレジャー用品まで載せられるほど余裕がなく、全部レンタルで済ませることにしたんだけど……海の家って水着のレンタルまでしているんだな。
こんなに色々揃っているなら手ぶらで来ても楽しめる。
ちょっと驚きながらお会計を済ませる俺たち。
「よし。みんなのところに戻ろう」
「うん!」
二人で借りた物を持って海の家を後にする。
ちなみに菫さんには場所取りを、悠香と莉乃さんには飲み物の買い出しをお願いした。俺たちより先に二人は戻っているだろうと思い砂浜の先に視線を投げる。
「たぶん、この辺りだったと思うけど……」
すると両手を振って飛び跳ねている悠香の姿が目に留まった。
居場所を教えてくれるのは助かるんだけど、俺の視線は振っている両手ではなく、ぴょんぴょん飛び跳ねることで規則正しく縦揺れをしている胸元へ。
この距離ならバレないと思いこっそり堪能。
「ありがとうな。おかげで見つけやすかったよ」
「ううん。二人こそ、重くて大変だったでしょ?」
悠香は『ありがとう』といいながら夏鈴の荷物を半分受け取る。
「それにしても、ずいぶんいい場所が取れましたね」
「ふふっ。そうだろう」
菫さんはドヤる感じで露出度の高い胸を張る。
海に近く海の家にも近く、それでいて公衆トイレにも近いベストな場所。
朝一で来たならともかく、十時半を過ぎた今になって取れるなんて奇跡的。
「実は、とある好青年に場所を譲ってもらったんだ」
「とある好青年?」
「場所を探して散策していたら、大学生と思わしき二人組を見かけてな。なかなかイケメンだったら声を掛けたら、荷物をまとめて場所を譲ってくれたんだ。お礼にお昼でもおごらせてほしいと言ったら遠慮して去っていった。まったく……最近の若者はシャイだな。いくら私が高値の花とはいえ、照れて去ることはないだろう!」
「「「「…………」」」」
思わず黙り込む俺たち。
「この調子なら良い男にナンパされるのも時間の問題。もし私の美しさに臆して声を掛けられないのなら、いっそ私から逆ナンしてやろうじゃないか!」
嬉々として声高らかに宣言する菫さん。
盛り上がっているところ申し訳ないんだけど、たぶん照れていたんじゃなくて狼狽えていたんだと思う。さらに言えば、場所を開けたんじゃなくて逃げたんだろう。
同じ男として彼らの心中をお察しせずにはいられない。
菫さんのやる気をそぐから黙っておくけど。
ていうか——。
「菫さん、一つ聞いていいで?」
「ああ。なんだだ?」
「ぶっちゃけ、海でナンパするようなチャラい男でいいんですか? 元彼じゃないですけど、気の多い人と付き合っても上手くいくとは思えないんですけど」
「確かに、凛久が心配するのも無理はない。しかしどうして、私とてナンパされに来ているのだからお互い様だろう。それに、大切なのは出会い方ではなく出会った後の話。ナンパする男が全員チャラいとも限らないさ」
なるほど……確かに菫さんの言うことも一理ある。
今は男女の出会いの二十パーセントがマッチングアプリなんて聞く。
会ったことも話したこともない、メッセージのやり取りしかしたこともない相手と恋をするのが当たり前なご時世なのを考えればナンパの方が誠実かもしれない。
相手の人となりが見える分、逆に安心感はあるかもな。
「まぁ、出会いの形は人それぞれですよね」
ただ一つ心配なのは……菫さんが妙に出会いを求めていること。
なんだか無理出会いを求めているような気がしてならない。
杞憂だったらいいんだけど……。
「道具も揃ったし設営を始めるか」
なんて心配しつつ、みんなで手分けして拠点の設営を開始。
俺と悠香でビーチパラソルを組み立て、夏鈴と莉乃さんがレジャーシートを敷いてビーチベッドをセッティング。クーラーボックスに飲み物を補充して拠点が完成。
さっそく菫さんはサングラスを掛けてビーチベッドに寝そべった。
「私はここで横になりながらナンパされるのを待つ。おまえたちも男にナンパされたら無暗に断らず、私のもとまで連れてくるようにな。よろしく頼んだぞ」
こうして美少女JKを撒き餌にしたナンパ作戦が開始。
あまり乗り気はしないけど適当に協力しよう。
「じゃあ、あたしたちは海で遊ぼっか♪」
「うん。早く海に入りたい!」
「準備体操もお忘れなく」
女子三人は羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てる。
ハイテンションの夏鈴を先頭に海へ向かおうとした時だった。
「ちょっと待って」
悠香が思い出したように待ったを掛けた。
「浮き輪って借りてきてないの?」
「ああ。借りた方がよかったか?」
「私、あんまり泳げないんだ」
「実を言うと、わたしも……」
莉乃さんも苦手らしい。
「悪い。先に聞いておけばよかったな」
「ううん。私も伝えてなかったから気にしないで。海の家で浮き輪を借りてくるから少し待っててくれる? 莉乃さん、一緒に借りに行きましょ」
「はい。ご一緒させてください」
パタパタと海の家に向かい走っていく姿を見送る。
二人が戻ってくるまで待っていようと腰を掛けると。
「……チャンス」
隣に座る夏鈴がなにやら呟いた。
「ねぇ、りっくん」
すると俺の肘をちょんちょん突いてくる。
「お願いしたいことがあるんだけどいい?」
「ああ。俺にできることならなんでもするけど」
なんて、なんの気なしに答えたのがまずかった。
「背中に日焼け止め塗ってくれる?」
「ひ、日焼け止め——!?」




