第13話 パンケーキ
その後、休憩に訪れたのは一階にあるレストラン街。
数あるお店の中から選んだのはパンケーキで有名な喫茶店だった。
ここは昔ながらのレトロな雰囲気が漂う店内と、リーズナブルな価格で気軽に立ち寄れることから学生やカップルをはじめ、老若男女問わず支持されている人気店。
その証拠に店内は幅広い世代のお客さんがお茶を楽しんでいた。
「いらっしゃいませ!」
元気いっぱいのウエイトレスさんに案内されて店内へ。
通されたのは、のんびり過ごすにはちょうどいい二人掛けのソファー席だった。
俺はアイスコーヒー、夏鈴はアイスティーと看板メニューのパンケーキを注文。
他愛のない話に花を咲かせていると、すぐに注文した品が運ばれてきた。
「めっちゃ美味しそう!」
夏鈴はテーブルに置かれたパンケーキを前に瞳を輝かせる。
それもそのはず、見るからにふわふわに焼き上げられた三枚重ねのパンケーキ。
テーブルに置いた振動でプルプルと揺れる生地の上に、溢れんばかりに盛られた大量のホイップクリーム。さらに追加でチョコレートソースのデコレーション。
いかにもSNS映えしそうな感じの見事な一皿。
隣にいる俺の方まで甘い香りが漂っていた。
「いただきます!」
夏鈴は鼻歌交じりに上機嫌。
フォーク片手にパンケーキを口に運ぶ。
「んんん~♪」
瞬間、頬に手を当てながら表情を緩ませた。
見ているだけで美味しさが伝わってくるというか、見ている俺まで笑顔になってしまうというか、至福の極みといっても過言じゃないほど幸せそうな笑みを浮かべる。
あまりにも美味しそうで味が気になっていると。
「りっくんも食べる?」
そう言いながら俺の口元にひと切れ差し出した。
「いいのか?」
「うん。美味しいから食べてみて」
シェアしてくれるのは嬉しいんだけど……。
「あ、りっくんって間接キスとか気にするタイプ?」
まぁ気にはする方ではあったんだけど、前に悠香と間接キスをして以来、最近はあまり気にしなくなった——なんて言ったら確実に機嫌を損ねるから言えない。
それでも相手によるんだけど。
「夏鈴が相手なら気にしないけど、夏鈴はいいのか?」
「もちろん。あたしもりっくんならウェルカムだから」
「お、おお……なんかありがとう」
そう言うとは思っていたけど面と向かって言われると照れる。
「はい。どうぞ」
改めて差し出されたパンケーキをぱくり。
想像していた以上にふわふわの食感に驚いた瞬間、生クリームの濃厚な甘さと一緒にとろけながら口の中に広がっていく。まるでわた飴か泡雪のような口当たり。
パンケーキとは思えない触感と美味しさに黙り込む。
「美味しいでしょ?」
「ああ。これはヤバいな」
さすが看板メニューなだけある。
「こんなに美味いなら俺も頼めばよかったな」
「じゃあ、あたしのやつ半分こにしよ」
さっそく夏鈴は器用にパンケーキを切り分ける。
「気持ちは嬉しいけど、さすがに悪いよ」
「たくさんあるから大丈夫」
「でも……むぐっ!?」
なんて遠慮していると、パンケーキを追加で口の中に押し込まれた。
「りっくん、知ってる?」
「——?」
口の中がいっぱいで返事ができない代わりに首を傾げる。
「こういうのってね、一人で食べるより二人で食べた方が美味しいんだよ。あたしが一人で食べるより、りっくんと半分こした方がもっと美味しいと思うんだよね」
確かに夏鈴の言う通り。
よく大切な人と一緒なら喜びは二倍に、悲しみは半分になんて言う。
それは誰かと分かち合うことで喜びが大きくなり、大切な人が傍にいることで悲しみが和らぐという意味だけど、もしかしたら美味しさも同じなのかもしれない。
その証拠に、未だクラスで友達ができずに独りで食べるぼっち飯より、みんなと猫まみれで再建活動をしながら食べる昼食の方が比べようがないくらい美味しい。
「あたしが美味しく食べたいから半分食べてくれない?」
そこまで言われたら遠慮する方が失礼だよな。
「ありがとう。遠慮せずもらおうかな」
「うん。あたしが食べさせてあげる♪」
こうして俺たちは飲み物を片手にパンケーキを味わう。
夏鈴が一口食べると次は俺が食べさせてもらう感じでシェアする。
たしかに夏鈴の言う通り、誰かと一緒に食べる方が二倍美味しいのは間違いないんだけど……甘さは二倍じゃ済まないように感じるんだけど気のせいだろうか?
パンケーキに負けず劣らず甘い空気が俺と夏鈴の間に漂っていた。
自分で言うのもなんだけど……どう見てもバカップル。
なるほど、美味しさは二倍だけど甘さは三倍以上になるらしい。
さすがに周りのお客さんの視線が痛かった。




