第6話 突然のお誘い
数日後の朝。
「……暇すぎる」
俺は自宅のリビングでソファーに寄り掛かりながら天井を仰いでいた。
というのも、今日は悠香と莉乃さんに用事があるらしく再建活動をお休み。
菫さんも夏休みに入ってから観音山で連日ナンパ待ちをしていたせいで仕事が溜まっているらしく、さすがにブチギレした学年主任に呼び出されて渋々学校へ。
連日活動をしていたこともあり、俺と夏鈴も今日はオフ。
久しぶりの休みなんだけど。
「特にすることがないんだよな……」
俺は猫まみれの再建のため部活には入っていない。
誰かと遊びに行こうにも、夏鈴たちと日帰り温泉で貸し切り風呂に入ったのを同級生に見られて以来、女子はもちろん男子からも変態扱いをされて友達はゼロ。
それどころか全校生徒からヤリチンの烙印を押されている。
「我ながら悲惨すぎるだろ……」
もう人並みの青春は期待できそうにない。
そんな悲しい話はさておき、一緒に遊ぶ友達がいないだけで用事がないわけじゃない。ただ、手間というか腰が重いというか、つい先送りしていることがある。
どうしたものかと悩んでいた時だった。
「……ん?」
マナーモードにしておいたスマホがテーブルの上で小刻みに揺れる。
メッセージが届いたのかと思いきや振動はとまらない。
「通話——?」
身体を起こしてスマホを手に取る。
画面には『一色夏鈴』の文字が表示されていた。
「も、もしもし——」
『もしもし。りっくん?』
慌てて通話に出てスマホを耳に押し当てる。
すると聞きなれた明るい声が耳をくすぐった。
『おはよ。起きてた?』
「ああ。さすがに起きてるよ」
『よかった。急にごめんね。今ちょっと話せる?』
「大丈夫けど、メッセージじゃなくて通話なんて珍しいな」
『メッセージを送ろうと思ったんだけど、なんて送ろうか考えてるうちに話した方が早いなと思って。ちょっとドキドキしたけど思い切って掛けちゃった』
そう言う通り、いつもの明るい口調にわずかな緊張の色が伺える。
突然の通話に驚いた俺の緊張も夏鈴に伝わっているんだろうな。
「なにか急ぎの用か?」
『………』
そう尋ねると夏鈴は急に黙り込む。
少し待っても返事は帰ってこない。
「夏鈴?」
『あっ——ごめんね』
夏鈴は思い出したように謝罪の言葉を口にする。
『なんだろ……りっくんの声は普段から聞き慣れてるはずなのに、初めてスマホで話してるからかな。いつもと違う感じがして聞き入っちゃった』
「確かに、少し不思議な感じはするよな」
『うん。なんだか落ち着く感じ』
夏鈴は感慨深そうに同意する。
『あたし、りっくんの通話の声めっちゃ好きかも』
「す、好き——!?」
突然の好意を表す言葉に思わず声が裏返った。
ふと、前に中央図書館で一緒に勉強した時のことを思い出す。
甘い物に目がなく、勉強中は糖分を摂取しないと集中力が切れる夏鈴のためにチョコを買っていった時も『そういうところ超好き!』と言って抱き着かれた。
あの時に感じた女の子特有の甘い香りが忘れられないのはさておき、恋愛的な意味じゃないとはいえ、何度も好意を言葉にされると意識の一つもしてしまう。
まっすぐに想いを伝えられるのは夏鈴の魅力の一つだけど、子供の頃の照れ屋だった姿を知っているだけに、劇的すぎる変化に耳を疑わずにはいられない。
特に男の下心への理解やエロに寛容なあたりは別人のよう。
『なんていうか……ほっとする感じ』
「そ、そうか……?」
『これからも用事がある時は掛けてもいい?』
「もちろん。遠慮しなくていいぞ」
『ほんと!? ありがと!』
そんなに喜ばれるさすがに照れる。
俺は照れ隠しをするように話を戻す。
「それで、どうしたんだ?」
『よかったら一緒に水着を買いに行かない?』
「水着を買いに——?」
思いもよらないお誘いに言葉を繰り返す。
そういえば夏鈴も持ってないって言ってたな。
『もりかして、りっくんて水着持ってる?』
「いや。俺も旅行までに買いに行こうと思ってたんだ」
ていうか、さっき言っていた腰が重い用事というのが水着のこと。
『それならよかった。じゃあ、今からショッピングモールに買いに行こうよ。せっかくの休みだし、水着以外にも色々みたいからお買い物デートとかどうかな?」
お買い物デートか……夏鈴と出掛けるのは久しぶりだな。
夏鈴とデートをするのは中間テスト前の勉強デート以来。期末テストの時も誘われるかと思っていたけど、悠香の件でバタバタして機会を逃していたんだよな。
リビングにある壁掛け時計に目を向けると九時を過ぎたところ。
「今から準備をするから、十時半に待ち合わせでいいか?」
「オッケー。中央入り口で待ち合わせね♪」
こうして夏鈴と水着を買いに行くことに。
通話を切り、さっそく準備を始めた。




