第4話 そうだ、海へ行こう
「ちょっと待て——」
菫さんが待ったを掛けた。
「どうかしましたか?」
「おまえたち、まさか夏休み全てを再建活動に費やすつもりか?」
「「「「はい」」」」
即答する俺たちと『うにゃうにゃ』鳴くあげぱんたち。
すると菫さんは頭を抱えながら深い溜め息を漏らした。
「いいか、高校生の夏は特別だ。社会人に聞いた学生時代にしておけばよかったことアンケートでは『もっと遊んでおけばよかった』が年代を問わず上位にランクイン。再建活動も立派な青春だが、普通の高校生らしい夏を謳歌すべきだろう……!」
拳を握り締めながら力説する菫さん。
妙に説得力があるのは実体験からだろうか。
「そんなわけで、二泊三日の海水浴旅行に行こう!」
「「「「海水浴旅行——?」」」」
再び重なる疑問の声が店内に響いた。
「先ほど、茨城県の大洗海水浴場にあるグランピング施設を予約しておいた。夏といえば海に水着にバーベキュー。みんなでひと夏の思い出を作ろうではないか!」
珍しく熱々というか意気揚々と語る菫さん。
誰もが憧れる笑顔の素敵なお姉さんだった昔ならともかく、やさぐれた印象のダウナー系お姉さんになってしまった今の菫さんが海とか場違いすぎる気がする。
俺たちの青春を気遣ってくれるのは嬉しいんだけど……。
「どうしたおまえたち。テンションが低いじゃないか」
「海も悪くないとは思うんですけど……」
「やっぱり猫まみれの再建を優先したいなって」
言葉を濁す俺の代わりに夏鈴が続きを口にした。
ただでさえ色々あって片付けも掃除も遅れ気味な状況。
みんな夏休みの進捗次第とわかっているだけあって心境は複雑。
「せっかく予約してもらって申し訳ないんですけど——」
「まぁ待て。私とて意味もなく海に誘っているわけじゃない」
菫さんはなにやら含みのある笑みを浮かべる。
「海水浴場の近くには、猫まみれと同じく築百年を超える古民家を改修して作ったカフェがあるんだ。地元の新聞や雑誌に取り上げられるほどの人気で、市内外問わず足を運ぶ客が絶えない人気店らしい」
「築百年を超える古民家カフェ……ですか」
「これから本格的に再建を進める上で足を運んでおいて損はない。これからの猫まみれの参考にすべく、視察ついでに海を満喫しようというわけだ」
「なるほど……」
海がついでか古民家カフェの視察がついでかはさておき菫さんの言う通り。
ちょうど猫まみれに来る途中も改修について話していたところ。
昔のような古き良き猫まみれの姿を取り戻すのはもちろんだけど、良い意味でリニューアルをするにあたり、ひとつのモデルとして参考になるかもしれない。
視察ついでの旅行なら悪くないか。
「そういうことなら、みんなの予定が合えば行ってみたいですけど——」
確認するように悠香から順番に視線を向ける。
「私は大丈夫だと思う。最近はお母さんも協力的だし、私たち学生だけだと難しいと思うけど、菫さんが一緒って言えば許可して貰えると思う。凛久は?」
「俺も大丈夫。実は夏休み中、父さんが県外に出張してるから一人暮らしなんだ」
少し補足すると、俺の父親は転勤族と呼ばれる仕事をしているんだけど、今後は高校生の息子である俺が成人するまで転勤を免除してもらえることになったらしい。
その代わり俺が長期休みの時には短期の出張をすることになった。
今後も夏休みや冬休みの度に出張が入るらしい。
「しばらく帰ってこないから連絡しておけば大丈夫」
続けて莉乃さんに視線を向ける。
「私も大丈夫だと思います。来年は受験で忙しくなることを考えれば、みなさんとお出かけできる機会は今年が最後。菫さんの言う通り思い出作りもいいでしょう」
「夏鈴は——」
そう尋ねながら目を向けると。
「……二泊」
夏鈴は浮かない表情を浮かべていた。




