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第47話 叶わなかった恋の答え合わせ

 花火大会が終わったのは四十分後。


 その後も俺たちは余韻に浸りながら夜景を眺めていた。

 花火が終わると辺りは一転して静寂に包まれ、耳を澄ませば少し離れた草むらから微かに虫の音が聞こえてくる。

 夜も更け、暑さは落ち着き頬を撫でる風が心地いい。

 お互いの息遣いが聞こえるほどの静けさの中。


「今日は誘ってくれてありがとう」


 先に切り出したのは悠香だった。


「まさか八年前の約束を叶えられるなんて思ってなかったから、誘ってもらえて嬉しかった。ずっと後悔してたの……あの日、凛久との約束を守れなかったこと」


 悠香は胸に両手を当てながら『でも——』と続ける。


「どうして誘ってくれたの?」


 ……やっぱり悠香は優しいよな。

 それは本来、俺から切り出すべき話だった。

 あの日の約束を果たしたいなんて誘い、特別な理由があると察して当然。

 俺から言わなくちゃいけないのに、緊張して言葉に詰まっているのを察してくれたんだろう。俺が話しやすいように悠香の方から本題に触れてくれた。

 昔と変わらない優しさが心に染みる。


「あの日——悠香が来なかった理由を知りたいんだ」


 それは何度も知りたいと願い、その度に諦めたこと。

 聞くのなら約束を果たしてからだと思ったんだ。


「よかったら聞かせてくれないか?」


 あれだけ知ることを恐れていた失恋の理由。

 八年越しに約束を果たせたことで満足したからか、悠香が優しく話を切り出してくれたおかげで緊張がほぐれたからか、再会した頃のような恐怖は消えていた。

 不思議だよな……今では早く聞きたいとすら思っている。


「あの日——」


 悠香はポツリと呟くと。


「お祭り当日の午後……倒れちゃったの」


 過去に想いを馳せるように語り始めた。


「引っ越しが決まった後、私は凛久との思い出を作りたくて、無理をいって色々なところに連れてってもらったよね。自分の身体のことも忘れて毎日出掛けて……無理をしてたんだと思う。浴衣に着替えている時に体調が悪くなって倒れたの」


 それは、悠香の両親の話から薄々気づいていたこと。

 母親が病室で『また——』と言っていた理由。

 概ね想像していた通りの答えだった。


「救急車で運ばれて、そのまま入院。予定よりも早く引っ越し先の病院に転院することになって……凛久との約束を守れなかったことだけが心残りだった……」


 当時の気持ちを思い出したのか、悠香は悲しそうに目を伏せる。


「本当は凛久と再会してすぐに謝りたかった。でも言えなかった……言えば凛久が責任を感じると思ったから。責任を感じさせるくらいなら、何事もなかったように振舞う方がいい。それに、お母さんが凛久のせいにしてたのもあったから」

「悠香を連れまわしたのは俺だ。お母さんが俺のせいにするのは当然だよ」

「違うの。本当に凛久のせいじゃないの!」


 悠香にしては珍しく強めに否定する。


「だって私、本当に辛いと思ってなかったの」

「……どういう意味だ?」

「凛久と思い出を作るのが楽しかったからかな。こんなに体調が良いのは初めてと思うくらい元気だったの。これだけ元気なら引っ越してまで治療しなくてもいいんじゃないかって思うくらい。だから、急に倒れた時は誰より私自身が驚いたくらい」


 悠香は『どう考えたって自業自得だよね』と苦笑いを浮かべた。


「そういうことだったのか……」


 悠香が来なかった理由に気づきながら、でも疑問に思っていたこと。

 当時、二人で思い出を作ろうと遊び歩いていた頃、体調を心配して大丈夫かと尋ねる俺に、悠香は目を逸らすことなく『大丈夫!』と答えていた。

 それは悠香が嘘を吐いていない証拠に他ならない。

 だから俺は悠香と出掛けていた。


 それなのに、なぜ倒れてしまったのか?


 悠香の口から当時の話を聞いた今ならわかる。

 おそらく、悠香は楽しすぎるあまり疲れを感じていなかったんだろう。

 よくアドレナリンが出ると疲れないとか、怪我をしても痛みを感じないなんて話を聞くように、残された時間を楽しく過ごしたいと願うあまり疲れを忘れていた。

 とはいえ、少しずつ——でも確実に疲れは身体に蓄積していく。

 そして夏祭り当日、とうとう限界を迎えてしまった。


「これが約束を守れなかった理由……本当にごめんなさい」


 悠香は深く頭を下げ、声を震わせながら謝罪の言葉を口にする。

 瞳から溢れた涙は膝の上で固く握り締める手を濡らした。

 俺は悠香の肩を掴んで顔を上げさせる。


「悠香は悪くないさ」

「でも、凛久のせいでもない」


 もちろん悠香の母親のせいでもない。

 ただ、当時の俺たちが子供だっただけ。

 幼くも必死で、でも、どうしようもなかった。


「だから、もう謝らなくていい」

「うん……ありがとう」


 悠香は俺の胸にすがり付きながらすすり泣く。

 小さく震える肩を抱きしめながらわかったこと。

 どうやら俺は八年間、ずっと勘違いをしていたらしい。


 あの日——俺は失恋なんてしていなかった。


 これが叶わなかった恋の答えだった。

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