第43話 約束の続き
「悪いな。送ってもらって」
「ううん。少し二人で話したかったから」
悠香の両親にお礼を言って家を出た後。
俺は悠香に途中まで送ってもらっていた。
「いつ以来だろう……こんなに気持ちが軽いのは」
「再建メンバーを抜ける前だから、一ヶ月ぶりくらいか?」
「ううん……たぶん、もっと前。引っ越して以来だと思う。凛久と別れてから、ずっと心が晴れないような感覚だった。凛久と会えない寂しさとか、病気が治ったのに好きなことができないもどかしさとか、ずっとなにかを我慢する日々だったから」
八年という長きに渡り曇り続けた空が晴れるような感覚。
それは俺には想像できないほどの爽快感なんだろう。
「ようやく心のモヤつきが全部なくなった気がする」
そう言葉にした通り憑き物が落ちたような笑みを浮かべる悠香。
その笑顔につられて思わず俺も笑みが零れた。
「でも、一つだけ心配なことがあって……」
すると笑顔から一転、悠香は表情を曇らせる。
「どうした? この際だから全部言ってみな」
「……夏鈴、私のこと許してくれるかな?」
「あー……」
思わず言葉を濁して空を見上げる。
「今さら戻りたいって言っても受け入れてくれないよね」
莉乃さんはともかく、あの時の夏鈴の様子を見れば無理もない。
でも俺はその後、夏鈴の本当の気持ちを聞いている。
「それなら大丈夫だと思うぞ。夏鈴が怒ってたのは悠香に抜けてほしくない気持ちの裏返し。悠香の努力を認めるようなことを言ってただろ? あれが証拠だよ」
夏鈴の本心を俺が伝えるのは野暮だけど、このくらいはいいだろう。
「そうだといいな。許してもらえるまで謝るつもりだけど」
悠香は『みんなと一緒にいたいから』と続けた。
「本当にありがとう。凛久には感謝してもしきれない」
「気にしなくていいって。俺がしたくてしたことなんだから」
「それじゃ私の気が済まないの。なにかお返しができればいいんだけど」
お返しか……。
「なにか私にしてほしいことはない?」
俺は見返りを求めてこんなことをしたわけじゃない。
でも、悠香さえよければ一つだけ頼みたいことがある。
「じゃあ、お言葉に甘えていいか?」
「もちろん。なんでも言って」
俺は立ちどまり悠香と向き合う。
気持ちを落ち着かせ、言葉に想いを込めた。
「あの日——八年前に交わした約束を果たしたいんだ」
悠香は瞬き一つすることなく驚いた様子で声を詰まらせる。
「今月の二十八日にある地元の夏祭り、今度こそ一緒に行かないか?」
「……うん。私も凛久と一緒に行きたいと思ってた」
それは、俺たちにとって唯一の心残り。
あの日、悠香が待ち合わせの公園に来なかった理由。
もう察しはついているし、悠香も俺が気づいているとわかっているはず。
不思議だよな……あれだけ知ることを怖いと思っていのに、今では悠香の口から聞かせてほしいと思っている自分がいる。
俺は八年越しに失恋と向き合う覚悟を決めた。




