第38話 寄り添う二人
「さて、今日も頑張るか」
気づけば悠香が離脱してから二度目の週末。
俺は今日も庭の片付けするため猫まみれに足を運んでいた。
その後も悠香が口を聞いてくれることはなく、相変わらずクラスメイトからは誹謗中傷のごとく好き放題言われ、クラスでは俺の孤立に拍車が掛かっている。
二ヶ月半前、俺との再会を喜んでくれていたのが嘘のよう。
今は他人以上に距離を感じていた。
「二度と口を聞いてもらえなかったりしてな……」
寂しさ覚えて漏らした直後、ふと思う。
今でこそ悲観的になっているけど、本来はこうなるはずだった。
悠香が俺に積極的に話しかけてくれなければ、猫まみれを再建しようと思っていなければ、気まずさ故に距離を置き、悠香と接点のない青春を送っていたはず。
むしろ再会当初は放っておいてくれとすら思っていたのに。
それなのに不思議だよな……今では寂しいと思っている。
「なんていうか……本当、我ながら……」
なんて言葉すればいいかわからないほど心中は複雑。
ネガティブな感情を振り払い作業を始めようとした時だった。
「ん……?」
庭の隅から聞きなれた鳴き声が聞こえてきた。
うにゃうにゃ言いながら近づいてきたのはあげぱん。
その隣にはにゃうにゃう鳴いているのりべんの姿もあった。
「あげぱんが連れてきてくれたのか?」
返事をするように俺の手に頭をこすりつけてくる。
しばらく撫でてやると満足したのか、のりべんを残して姿を消すあげぱん。
のりべんはあげぱんがいなくなったのを気にする様子もなく俺の背中を上りだす。ずり落ちそうになるのりべんを、おんぶするように担いで肩に乗せた。
「落ちないように気をつけるんだぞ」
にゃうにゃう返事をするのりべんと一緒に作業開始。
前回で庭の片付けは七割くらい終了。
今日は無理でも来週には終わらせることができるようにペースアップ。
梅雨とは思えない見事な快晴は気持ちが良い反面、強い日差しが容赦なく体力を奪っていく。肩に乗っているのりべんの重さで疲労度はいつもの三割増し。
それでも一人じゃないだけ心強く、作業を続けること二時間。
少し休憩しようと思っていた時だった。
のりべんは肩から飛び降りると玄関の方に駆けていく。
「どうしたんだ……?」
疑問の言葉を漏らした直後、まさかの光景に目を疑う。
視線の先にはのりべんを抱っこしている悠香の姿があった。
「悠香……来てくれたのか?」
悠香は俺の問いに答えることなく手にしていた買い物袋を差し出す。
受け取って中を確認すると、唐揚げ弁当とのり弁当が入っていた。
「お昼、どうせ買ってきてないんでしょ?」
「ああ、そうだけど……」
「勘違いしないでね」
悠香は釘を指すように前置きする。
「再建メンバーに戻りたくて来たわけじゃないの」
「それなら、どうして猫まみれに?」
「夏鈴から聞いたの。凛久が私の分まで頑張ってくれてるって」
夏鈴から——?
「どれだけ無視しても毎日メッセージを送ってくるの。着信も多いし、学校帰りに待ち伏せするし……そのうち家まで押しかけてきそうで、いい迷惑……っ」
悠香は声を詰まらせながら視線を流す。
「凛久に話しかけられるのも迷惑だから、もう一度話しておこうと思って」
二人の間でどんなやり取りがあったのかを詮索するつもりはない。
でも、夏鈴が俺のために悠香と話す機会を作ってくれた。
そういうことだろう。
「なにを言われてもメンバーには戻らない。これからは学校でも話しかけないでほしい。でも、私が一方的すぎるのもわかってる……だから、最後に庭の片付けだけは責任を持ってやる。私も仕事を途中で放棄したみたいで気分が悪かったから」
一時的とはいえ、悠香が戻ってきてくれて本当に嬉しく思う。
「でも……体調は大丈夫なのか?」
「うん。もう無理はしないから安心して」
悠香は俺から目を逸らすことなく口にした。
その様子を見る限り嘘は吐いてないんだろう。
「……わかった。手伝ってくれて助かるよ」
俺たちは縁側に腰を降ろしてお弁当を広げる。
俺は自分が被っていた帽子を悠香の頭に被せてあげた。
「無理しないとはいえ、日差しが強いから被ってな」
「……ありがとう」
お弁当を食べ終えると、俺たちは無言で作業を続けた。
すぐ傍にいるのに心の距離は遠く離れたままのように感じる。
なにを話せばいいか、どんな言葉を掛ければいいかわからず、いくら考えても閉ざした心を開くような気の利いた言葉は思い浮かばず、本心を聞く術は思いつかない。
言葉を交わしたのは途中、休憩を取ろうと声を掛けた一言だけ。
再開後も会話はなく、黙々と作業を続ける俺と悠香。
気づけば夕方、ずいぶん日は傾いていた。




