第36話 夏鈴の想い
週が明けた月曜日。
悠香は予定通り一週間ぶりに登校した。
心配していたクラスメイトたちをよそに、まるで何事もなかったように笑顔で答える悠香。そんな様子を見て安心したのか、クラスはいつもの日常を取り戻していく。
唯一変わったことがあるとすれば、悠香の俺に対する態度だろう。
これまでが嘘のように俺との接触を避けるようになった。
そんな状況に周りが気づかないはずもなく、あることないこと噂する。
まぁ気持ちはわかるよ……一緒にお昼を食べようとか、一緒に帰ろうとか、毎日のように悠香の方から俺に話しかけてきていたのに接点が皆無になったんだから。
仕舞には付き合ってもいないのに別れ話が広まる始末。
だからといって周りの目を気にしていられない。
「悠香、少しいいか?」
「…………」
悠香は黙って席を立ち教室を後にした。
それは確認するまでもなく明確な拒絶の意思表示。
その日から話しかける俺と逃げる悠香のやり取りが始まった。
毎朝、俺が悠香に挨拶して無視されることで一日が始まる。
お昼休みには一緒に食べようと誘い、放課後には一緒に帰ろうと誘う。
まるで再会した頃の俺と悠香の立場が逆になったような状況が、よほどクラスメイトには滑稽に映ったんだろう。未練がましいと笑われてもアプローチを続ける。
それでも悠香が応えることはなく日々は過ぎていく。
そんな毎日がしばらく続いた週末。
俺は梅雨の晴れ間に猫まみれで庭の片付けをしていた。
「ようやく折り返しってところだな……」
庭を埋め尽くしていた落ち葉やゴミも半分は片付いた。
この調子で進めたいところだけど、梅雨の雨を吸った落ち葉はすごく重い。当初よりもペースは落ちているけど、それでもめげずにかき集めていた時だった
「りっくん?」
俺をりっくんと呼ぶのは今も昔も一人だけ。
振り返ると、あげぱんを抱っこしている夏鈴の姿があった。
「りっくん……一人でなにしてるの?」
夏鈴はあげぱんと揃って首を傾げる。
「見ての通り、庭の片付けをしてたんだ」
「もしかして……あの日からずっと?」
「毎日じゃないけどな。なんていうか……いずれ悠香が戻ってくることになった時、自分のせいで作業が遅れたとか思わなくていいように終わらせておきたくてさ」
「確かに、悠香の性格的に絶対気にするよね」
これが自己満足なのはわかっている。
それでも悠香がテスト期間中に片付けをしてくれていたように、今度は俺が悠香の分も頑張って、いつ帰ってきてもいいように居場所を残しておきたいと思っていた。
「夏鈴はどうして猫まみれに?」
「なんとなく落ち着かなくって……」
いつもと違いテンションが低いのも無理はない。
なにかと衝突することが多い二人だけど、喧嘩するほど仲が良いという言葉の通り。ライバルみたいな仲間が抜ければ張り合いがなくなって当然だろう。
「俺でよかったら話を聞くよ」
「うん……」
俺は手をとめ、夏鈴と並んで縁側に腰を掛ける。
夏鈴は落ち着かない様子で膝の上にいるあげぱんを撫でまくる。
あげぱんも夏鈴の様子に気づいているのか、いつもなら暴走族よろしく爆音で喉を鳴らしまくるのに、今日は控えめにゴロゴロと心地の良い音を響かせている。
しばらく縁側に喉を鳴らす音が響いた後だった。
「悠香が抜けた理由……あたしかもしれない」
夏鈴は消え入るような声で呟いた。




