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第34話 いつもの屋上

 週明け、月曜日のお昼休み。

 俺は菫さんを屋上に呼び出していた。


「凛久から誘うなんて珍しいじゃないか」

「菫さんに聞きたいことがあるんです」

「……十中八九、悠香のことだろうな」


 菫さんは電子タバコをふかしながら言葉を漏らす。

 その口調から、俺が聞きたいことを察しているんだろう。

 いつもなら菫さんが元彼の愚痴を零し始めるタイミングだけど、珍しくそうしないのは菫さんなりに話に付き合ってくれる意思表示なのかもしれない。

 仮にされても今日ばかりは聞いてあげる余裕はなかった。


「悠香の体調のこと……菫さんは知っていたんですか?」

「当然、担任教師だから話は聞いていた。病気は完治したが虚弱体質は変わらず、日常生活に支障はないが、体調次第で学校を休ませてほしいと相談を受けていた」

「俺に教えてくれなかったのは理由があってですよね?」

「悠香の希望だ。普通の高校生活を送りたいから黙っていてくれと頼まれた。子供の頃を知る身としては、人並みの青春を謳歌したいという気持ちは理解できる」


 ……なんとなく、そうだろうなと思っていた。

 必要以上に元気に振舞うのは本当の姿を隠すため。


「菫さんは悠香の病状について連絡を受けてますよね?」

「数日の入院が必要だが、大事には至らないそうだ。退院後、今週いっぱいは自宅静養。医者もこれ以上の無理をしなければ問題ないと言っているらしい。今後は凛久も体調を気にかけてやってくれ。病人とメンヘラの『大丈夫』は信じちゃいけない」

「わかりました……」


 我ながら気のない返事をしてしまったと思う。

 そんな俺を見かねたのか、菫さんは困ったように眉を下げた。


「こんな冗談を言えば不謹慎だと小言の一つも言うだろうに……気持ちはわかるが医者も大丈夫だと言っている。安心こそすれば、そんな顔をする理由はないだろう」


 その声は普段のやさぐれた感じではなく優しさに満ちていた。

 まるで猫まみれで働いていた当時の菫さんのように。


「実は……」


 不意に優しくされたからかもしれない。

 子供の頃から恋愛相談をしていたのもあるんだろう。

 気づけば夏鈴や莉乃さんにも言えなかったことを零していた。


「悠香の母親から怒られたんです……『また』あなたのせいかって」

「……なるほどな」

「悠香のお母さんが怒るのは当然です。幼い頃から事情を知っている俺が、本人から病気が治ったと聞かされていたとはいえ無理をさせたんだから。むしろ怒られない方がおかしいと思う。でも……またって言葉の意味がわからないんです」


 菫さんならなにか知っているかもしれない。

 知らないまでも心当たりがあるかもしれない。

 そんな俺の期待とは裏腹に菫さんは首を横に振る。


「だが、それがあの日の答えに繋がっているんだろう」


 あの日の答え——それがなにを意味しているかなんて聞くまでもない。

 夏祭り当日、悠香が待ち合わせ場所の公園に現れなかった理由。


「図らずも、過去と向き合う時がやってきたのかもしれないな」


 菫さんは俺の頭に手を載せて優しく撫でる。


「せいぜい頑張れ男の子。悲劇のヒロインに手を差し伸べるのは、いだって王子様の役割だ。過去の話とはいえ、一度は惚れた女のために一肌脱ぐのも悪くない」


 菫さんは思わせぶりな台詞を残して屋上を後にする。

 一人残された俺は空を見上げながら呟く。


「過去と向き合う時がやってきた……か」


 理由を知りたくないわけじゃない。

 でも、未だ覚悟は持てずにいた。

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