第29話 莉乃とデート③
「では、お土産をあげましょう」
俺は買い物袋から某猫が夢中になるおやつを取り出す。
すると、待ってましたと言わんばかりに猫たちの視線が俺の手元に集まる。
あまりにも圧が強く、しかも手の動きに合わせて猫たちの目線が上下左右に動くのが面白い。スピードを上げても軍隊よろしく規律のとれた動きでおやつを追う。
気分はさながら熟練の猫使い。
「ほら、食べていいぞ」
おやつの封を切り、俺はあげぱんに、莉乃さんはわたあめにおやつを差し出す。
あげぱんは俺の手を前足で器用に掴みながらぺろぺろと舐め始め、その後ろで行儀のできるラーメン屋みたいに順番待ちをしている猫たちを見て笑みが零れた。
なぜなら過去に何度も見たことのある光景だったから。
「みんな猫らしくなく行儀が良いですよね」
「あの頃からずっと変わらないんですよ」
当時、俺と莉乃さんは猫たちにおやつをあげる係りだったんだけど、不思議なことにおやつをあげようとすると、猫たちは争うことなく列を作って順番を待っていた。
しかも先頭のあげぱんから最後の一匹まで並びも同じ。
しつけたわけでもないのに驚きだよな。
「争いが起きないよう、あげぱんがみんなをまとめてるからだと思います」
「へぇ……ちゃんとボス猫をしているんですね」
夢中でおやつを舐めるあげぱんの頭を撫でてやる。
その隣で莉乃さんもわたあめの喉を撫でてあげていた。
「よくこうして、二人でおやつをあげていましたね……」
莉乃さんは懐かしそうに目を細めながら口にする。
あれから三年、今も二人の間に流れる空気は変わらなかった。
その後、俺たちは猫たちと楽しいひと時を過ごした。
買ってきたおやつをあげたり、集会所に置いてあった猫用の玩具で遊んだり、遊び疲れたら猫を吸ったり。テスト勉強のストレスを発散するように猫たちと戯れる。
思い出話を交えながら、気づけば一時間半も遊んでいた俺たち。
猫の面倒を見てくれている方々がお迎えに来て集会はお開きとなった。
「今日はありがとうございました」
解散後、俺は莉乃さんを家まで送り届けていた。
「お礼を言わなければいけないのはわたしの方です。みんなも喜んでいましたし、わたしも久しぶりに心から楽しい時間を過ごすことができました」
莉乃さんは胸に手を当てながら噛み締めるように呟く。
すると少し頬を染めながら窺うように俺の顔を覗き込んできた。
「正直に言うと……今日お誘いしたのは、みんなに合わせたかったからだけではないんです。わたしがりっちゃんとお話をしたくて、集会を口実にしたんです。再会して以来、ゆっくり思い出話をする機会もなかったので」
「莉乃さん……」
「これを機に、昔のように仲良くしてくれると嬉しいです」
その気持ちを嬉しく思う半面、複雑な思いもあった。
なぜなら俺は一度、莉乃さんに完璧なまでに拒絶をされているから。
あの日、莉乃さんが俺と距離を置くようになった理由——好きだから一緒にいられないという言葉の意味を知らないまま別れ、再会を果たした今もわからないまま。
まるで何事もなかったような態度に困惑している自分がいる。
今さら理由を聞けるはずもなかった。
「じゃあ、またテスト明けに」
「はい。気をつけて帰ってくださいね」
莉乃さんに別れを告げて帰路に就く。
その足はバス停ではなく猫まみれに向かっていた。
「せっかくここまで来たんだし、片付けの続きをして帰るか」
猫たちと再会して再建へのモチベーションが上がったからだろう。
一日でも早く再建して猫たちを迎え入れてやりたい。あの頃のように、子供たちにとってはもちろん、猫たちにとっても心穏やかに過ごせる場所を取り戻したい。
いてもたっていられず速足で猫まみれへ向かう。
到着して玄関を開けた時だった。
「「え——?」」
驚きの声が重なる。
そこにはジャージ姿の悠香がいた。
「どうして悠香がここに?」
「どうして凛久がここに?」
今度は疑問の声も重なり思わず笑みが零れた。
「俺は猫の集会にお邪魔してきた帰りなんだ」
「猫の集会?」
悠香は頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。
本当、美少女はこんな仕草すら可愛いから困るよな。
「猫まみれにいた猫たち、今は近所の人が面倒を見てくれてるらしくてさ、月に一度集会所に集まってるんだ。今日がその日で、莉乃さんが誘ってくれたんだよ」
「そうなんだ。みんな元気だった?」
「ああ。のりべんもいたぞ」
「のりべんも!?」
悠香は羨ましそうに声を上げる。
「いいな……私も会いたかったな」
「次の集会には悠香も誘うよ」
「本当!? 約束だからね!」
「ああ。それで、悠香はどうしてここに?」
「片付けの続きをしてたの」
店内を見渡すと最後に作業をした時よりも片付いている。
片付いているどころか目を疑うほど綺麗に整理整頓されていた。
「一人で片付けてくれたのか……?」
「ほら、凛久が『できればゴールデンウィーク中に半分くらいは終わらせたかった』って言ってたでしょ? だから少しでも進めておこうかなと思って」
「もしかしてテスト期間もずっと?」
「さすがに毎日じゃないよ。私、勉強は夜じゃないと集中できないタイプだから日中は暇なんだ。それに、私も凛久と同じ気持ち……一日も早く再建したいから」
胸の奥が熱くなるのを押えられない。
一人で片付けをしてくれていたことだけじゃない。
なにより俺と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しかった。
「ありがとうな」
「私がしたかっただけだから」
「俺も手伝うから一緒にやろう」
「うん!」
俺たちは協力して片付けを続ける。
日が落ちた頃、片付けは半分以上終わっていた。




