第2話 悠香との出会いと別れ
酒井悠香と出会ったのは小学一年生の秋だった。
俺は放課後になると近所の喫茶店でお世話になっていた。
ある日、見慣れない女の子がいると気づいて声を掛けたのが恋の始まり。
当時、悠香は病気を患っていて病院に掛かり切りだったらしく、専業主婦だった母親が治療費を捻出するため働き始めたのを機に喫茶店に通い始めた。
庭で遊ぶ子供たちを独り寂しそうに眺めている悠香を放っておけなかったのは、俺も母親を亡くしたばかりで寂しい思いをしていたからだと思う。
その日から、俺たちは寄り添うように一緒に過ごすようになった。
なにをするわけでもなく、他愛のない話をして、悠香の体調が良い日は近所を散歩する——そんな何気ない日常が、当時の悠香にとっては当たり前じゃなかった。
病気のこともあって友達ができたことがないという悠香に。
「なに言ってるんだよ。俺たち、もう友達だろ?」
「うん……凛久は私の初めての友達!」
そう言った時の嬉しそうな顔は今でも忘れられない。
それからの日々は、お互いにとってかけがえのないものだった。
誰かが傍にいてくれる安心感と、一緒に笑ってくれる人がいる喜び——あの頃は幼くて気づけなかったけど、それは人が幸せと呼ぶ感情そのものだったと思う。
当然、俺が悠香を好きになるのに時間は掛からなかった。
幼心に惹かれ合い、想いが通じ合っている確信があった。
俺が悠香を好きなように、悠香も俺のことを好きでいてくれる。
この幸せがずっと続くと信じて疑わなかった、ある日のことだった。
「私、引っ越しすることになったの」
出会いから半年が経った初夏、突然の別れを告げられた。
その瞬間、頭が真っ白になった感覚は今でも鮮明に覚えている。
なんでも悠香の病気を専門にしている医師に診てもらえることになったらしく、その病院は他県にあるため、通院を考えれば引っ越す以外に方法はなかったらしい。
刻一刻と別れの時が迫る中、七月下旬に行われる夏祭りに誘った。
今まで言葉にせずとも通じ合っていた想いを確かめたくて。
生まれて初めて好きな子に告白しようと決意して。
「夏祭りの日に、伝えたいことがあるんだ」
「うん……楽しみにしてるね」
それが悠香と交わした最後の言葉になるなんて思わなかった。
夏祭りの当日、悠香が待ち合わせの公園に現れることはなく、喫茶店に遊びに来ることもなく、予定よりも早く引っ越したと知ったのはしばらく経ってから。
こうして俺の初恋は告白することなく幕を下ろした。




