第28話 莉乃とデート②
「こいつらのためにも頑張らないといけませんね」
「はい。一緒に頑張りましょう」
猫たちに囲まれながら穏やかな笑みを浮かべる莉乃さん。
聖母を思わせるような慈愛に満ちた微笑みに思わず見惚れた。
「りっちゃん、どうかしましたか?」
そんな俺に莉乃さんは不思議そうに尋ねてきた。
さすがに見惚れていたとは言えず別の言葉を探す
「猫を抱いてる姿が絵になるなと思って」
「絵になる……?」
小さく声を漏らした直後、みるみる顔を赤くする莉乃さん。
変な言い方をしたつもりはないんだけど、近くにいたわたあめを抱き上げると照れ隠しのように顔の前に掲げ——次の瞬間、ふわふわのお腹に顔をうずめた。
「すうううぅ……はあああぁ……」
莉乃さんは大きく息を吸って深呼吸。
恍惚の表情を浮かべながら猫を吸い始める。
「えっと……なにをしてるんですか?」
「ごらんの通り、猫を吸っています」
いや、それはわかっています。
聞きたいのは吸っている理由です。
「猫吸いは心のオアシス。一匹いかがですか?」
おもむろに差し出されたわたあめを受け取る俺。
タバコみたいに勧められても反応に困る。
「一度吸ったらやめられませんよ」
そこまで言われたらさすがに気になる。
見様見真似でわたあめのお腹に顔をうずめて深呼吸。
名前の由来になっているふわふわの毛が頬を撫でる感触が心地よく、窓際で日向ぼっこでもしていたのか、お日様の香りがしてリラックス効果が抜群。
わたあめも吸われ慣れているのか全くの無抵抗。
確かにこれは中毒性があるかもしれない。
「やはり緊張している時の一匹は格別ですね」
二匹目を吸いながら表情を蕩けさせる莉乃さん。
そういえば子供の頃、莉乃さんが庭で猫に顔をうずめている姿を見たことがあった。当時はなにをしているか不思議に思っていたけど数年越しに謎が解けた気分。
それはさておき素朴な疑問なんだけど。
「猫を吸いたくなるほど、なにを緊張してたんですか?」
すると莉乃さんは顔をうずめたまま横目でチラリとこちらを除く。
気のせいではなく、その頬はさらに真っ赤になっていた。
「りっちゃんが褒めてくれるとは思わなかったので、つい嬉しくなってしまいました。それに……こうして二人きりになるのは久しぶりなので緊張しています」
「えっと……」
そんなことを言われると俺も意識してしまう。
再会して以来、莉乃さんは四人の中で一番落ち着いていたから昔のことなんて気にしていないと思っていたんだけど……どうやら俺の勘違いだったらしい。
こんなに動揺している莉乃さんを見たのは初めてだった。
「すみません……もう一匹吸わせてください」
「じゃあ、せっかくなので俺も一匹……」
のりべんを抱っこしてお腹を貸してもらう俺。
「「ふぅ………」」
二人並んで正座をしながら猫を吸っている奇妙な光景。
なにも知らない人が見たらなにかの儀式と勘違いしそう。
「お待たせしました。もう大丈夫です」
しばらくすると猫から顔を離す莉乃さん。
その表情はいつもの心穏やかな和風美人に戻っていた。




