第27話 莉乃とデート①
いよいよ期末テストを数日後に控えた放課後。
今日は夏鈴に予定があるらしく一緒に勉強する約束はない。
図書館で一人勉強するのもなんだし、悠香も最近は学校が終わると早々に帰宅するから誘われないし、家で大人しく勉強しようと帰り支度をしていた時だった。
「誰だ、あの綺麗な人——?」
とある男子の声が響いた直後、教室内がざわつく。
何事かと思いながら視線を向けた瞬間、我が目を疑った。
「莉乃さん?」
教室の入り口で微笑みながら手を振っている莉乃さんの姿があった。
クラスメイトも莉乃さんの視線が俺に向いていることに気づいたんだろう。
「酒井さんだけじゃ満足できねぇのかよ」
「なんで天崎ばかりモテるんだクソが!」
「可哀想……あの人もヤリチンの餌食に」
「彼女は女の敵だから切り落としましょう」
本人に聞かれているのなんてお構いなしに声が響く。
男の嫉妬はまだしも女子が言った最後の台詞は結構きつい。
ていうか、手にしたハサミでどの部位を切り落とすつもりなんだろう。股間に向けられる視線と殺気を感じながら逃げるように莉乃さんのもとへ駆け寄る。
「急に押し掛けてすみません」
「いえ。なにか俺に用事ですか?」
「今日、この後お時間はありますか?」
「はい。特に予定はないので大丈夫ですよ」
「では、少しだけお付き合いください」
こうして俺は莉乃さんと一緒に教室を後にした。
学校を出た後、俺たちは最寄りのバス停からいつもの路線に乗車。
猫まみれに向かっていると思いきや少し手前のバス停で降りる。
「どこに向かってるんですか?」
「まぁまぁ。もうすぐに着きますので」
言われるままに莉乃さんの後についていく。
五分ほど歩いて訪れたのはドラッグストアだった。
「ドラッグストアでお買い物ですか?」
「はい。お土産を買おうと思いまして」
「お土産?」
ますます目的地がわからない。
中へ入ると莉乃さんが向かったのはペットフードコーナー。
てっきり莉乃さんの家でお世話をしているわたあめのお土産を買うものだと思っていたら、俺が持っているカゴに某猫が夢中になるおやつを大量に放り込む。
「こんなに買うんですか?」
「もっと買ってもいいくらいです」
莉乃さんは笑顔で即答、困惑する俺をよそにお会計を済ませる。
二人で買い物袋を片手に坂道を上ること二十分。
「ここが目的地です」
「……集会所?」
訪れたのは地元町内会の集会所だった。
都会に住んでいる人には馴染みがないかもしれないけど、田舎に住む人にとって集 会所は、地域住民の交流や各行事の会場としても使われる重要な場所。
「どうぞ中へ」
促されるまま中へ入った瞬間だった。
「え——」
まさかの光景を前に驚きの声が漏れた。
俺と莉乃さんを出迎えてくれたのは二十匹を超える猫の群れ。
猫たちは俺と莉乃さんの足元をウロチョロしながらにゃんこ大合唱。
一匹撫でると、俺も私もと言わんばかりに次から次へと近寄ってくる毛玉たち。
総出で撫でろと強要するさまは圧倒的なハラスメント感。略してネコハラ。なにかとハラスメントにうるさいご時世だけど、こんなハラスメントなら毎日受けたい。
なんて思っていると、どこか見覚えのある猫が近づいてきた。
にゃうにゃう言いながら俺に擦り寄る猫を抱き上げる。
「おまえ、もしかして……のりべんか!?」
白いお腹と背中に広がる黒い毛並みのツートンカラー。
まるで白米に乗っている海苔を想起させ配色が名前の由来。
ちなみに名付け親はのり弁(お弁当)を愛してやまない悠香なんだけど、名前を付けてくれたからかどうかはさておき、のりべんは悠香に一番懐いていた。
よく見れば他の猫も見覚えがあるのは気のせいじゃない。
三毛猫にキジトラにハチワレ、他にも種類はわからないけど品のある美猫や、少しおデブで大福みたいな猫。さっきから俺の背中に登ろうとしている猫もそう。
もちろん、あげぱんとわたあめの姿もある。
「もしかして、ここにいる猫たちは……」
「猫まみれでお世話していた子たちです」
「そうですよね!」
突然の再会に感激して猫たちを片っ端から撫でまくる。
みんな揃って俺の前で寝転がりへそ天パラダイス。
「でも、どうして集会所に猫たちが集まってるんですか?」
「猫まみれが閉店して以来、わたしがわたあめのお世話をしているように、他の子たちも近所の方々がお世話をしてくれているんです。でも、みんな離れ離れになって寂しそうにしていたので、月に一度集まる機会を作ったんです」
「なるほど」
いわば猫たちの定期集会のようなもの。
猫が集会所を使っていいのかと思ったけど、集会所は地域に住んでいる人なら誰でも使っていいわけだし、猫も住民と思えばダメってことはないのかもしれない。
当時も定期的に猫まみれの庭で集会をしていたのを思い出す。
「りっちゃんが他の子たちを心配していたので早く合わせてあげたかったんですけど、お宅を一軒一軒回るのは大変だと思い、こうして集会の日を待っていたんです」
「そうだったんですね」
「お世話をしている方々にも猫まみれの再建についてお伝えしました。みなさん、いつか猫まみれが再オープンしたら、この子たちを帰そうと言ってくれています」
「いいんですか?」
保護したら家族のようなもの。
きっと情も愛着も湧いているだろう。
「この子たちは元野良猫。お世話をしているといっても、みなさんで面倒を見ている地域猫のようなもの。それに、みんなにとっての家は猫まみれ意外にありません」
莉乃さん曰く、お世話をしてくれている方々も同じ気持ちらしい。
俺たちだけじゃなく猫たちにとっても猫まみれは帰るべき家。
そう思うと、また一つ頑張る理由ができた気がした。




