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第26話 夏鈴とデート③

「結局、俺が教えてもらってばかりだったな」


 図書館を出た後、俺たちは自転車を押しながら並んで歩いていた。


「気にしないで。人に教えることで自分の理解が深まることってあるし、昔みたいに一緒に勉強できて嬉しかったし……よかったら明日も一緒に勉強しない?」


「俺は助かるけど、夏鈴の勉強の邪魔にならないか?」

「全然邪魔じゃないよ。むしろやる気が出るくらい!」


 だけど夏鈴は笑顔から一転、少し難しい表情を浮かべる。


「わかってはいたんだけど……うちの高校ってレベルが高くて、ついていくのが大変なんだ。図書館の方が集中できるし、二人だと教え合えるから助かるんだよね」

「そこまで言うなら付き合うよ」。

「ほんとに!? ありがと!」


 夏鈴は昔のようにはにかんだ笑みを浮かべる。

 この笑顔が見られるだけでも付き合う価値はあるよな。


「でも、なんで大変だとわかっていながら花女を選んだんだ?」


 頭の良い奴が進学校に進むのは当然といえば当然。

 だけど夏鈴の場合は事情が違うような気がして尋ねてみると。


「そんなの、りっくんに会うために決まってるじゃん♪」


 夏鈴は満面の笑みを浮かべながら迷うことなく即答。

 まさかの一言に心を撃ち抜かれて疑問の声すら零れない。


「ちょっと自分語りになっちゃうんだけど……」


 そう前置きすると、夏鈴は夕日を眺めながら語り出す。


「あたしのお母さんって、いわゆる教育ママなんだよね」

「教育ママ……?」

「昔から教育熱心だったんだけど、両親が離婚してからさらに熱が上がってさ。たぶん片親を理由に勉強ができないと思われたくなかったんだと思う。小学四年の時に引っ越したのも、お母さんの実家近くにある私立の女子中に進学するためだったの」

「……厳しいお母さんなんだな」

「でも、勉強さえできれ他は好きにすればって感じ。髪色も快くは思ってないだろうけどダメとは言われないし。学校が髪色自由なのもあって言いにくいんだろうね」


 夏鈴が引っ越した理由は幼心に色々と想像していた。

 でも、こんなに複雑な事情だとは思わなかった。


「あたしはこの街に帰ってきたかった……また昔みたいに、りっくんと一緒に猫まみれで過ごしたかった。そのためには花女に進学するしかなかったの。偏差値的に難しいのはわかってたけど、県内でトップクラスの女子高ならお母さんは反対しない。むしろ喜んで引っ越してくれる。だから必死に勉強してギリギリ合格できたってわけ」


 一人の女の子が自分と再会するために努力してくれていた。

 その事実を男として嬉しいと思わずにはいられない。


「正直に言うと、猫まみれの片付けを始めたのも、猫まみれにいればりっくんに会えると思ったからなんだ。りっくんは絶対に帰ってくるって信じてたから!」


 夏鈴は重苦しい空気を払うようにテンションを上げる。

 夕日に滲む表情があまりにも綺麗で見惚れてしまった。


「……ありがとうな」


 口から零れたのは感謝の言葉。


「嬉しいよ……そこまでして会いに戻ってきてくれて」

「お礼なんていいの。あたしが会いたかっただけだもん」


 でも、心中は感謝よりも謝罪の気持ちでいっぱいだった。

 不意に十五年の人生で最も後悔している言葉が頭をよぎる。


 俺が好きなのは夏鈴と真逆のタイプだから——あの日、俺が口にした言葉。心にもないことを言って夏鈴を傷つけたにも拘わらず会いたいと思ってくれていた。


 正直、嫌われていて当然だと思っていたのに。


「まぁでも、りっくんがどうしてもお礼を言いたいっていうなら、今日と明日だけなんて言わないで、中間テストが終わるまで毎日付き合ってくれてもいいけど?」


 夏鈴は悪戯っぽい笑みを浮かべて口にする。


「さすがに毎日は無理だな」

「そうだよねぇ」


 夏鈴は少し残念そうに苦笑いを浮かべた。


「でも、空いてる日は付き合うよ」

「やった! 決まりだね♪」


 こうしてお互いの予定を確認しながら帰路に就く。

 あの日、酷いことを言った俺を今も慕ってくれる理由はわからない。

 許してもらえるなんて思ってない……だけど、夏鈴の笑顔を見ていると少しだけ罪悪感が和らぐような気がした。

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