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第25話 夏鈴とデート②

 静まり返る自習室の中、集中して勉強を進める俺たち。


「うーん……」


 三十分もすると、夏鈴は難しい顔をしながら唸り出した。

 横目で様子を伺うと明らかに集中力が切れている感じ。

 それを見た俺は鞄の中からある物を取り出した。


「これ、食べていいぞ」

「え……アーモンドチョコ!?」


 夏鈴は難しい顔から一転、ぱっと表情を咲かせる。

 まるでおやつを前にする子供のように瞳を輝かせた。


「あたしのために買ってきてくれたの?」

「夏鈴にとって勉強中の必需品だろ?」


 俺がコンビニに寄って買ったのはこれ、アーモンドチョコ。

 夏鈴は子供の頃から甘い物に目がなく、いや見境がなく、おやつ代わりに猫まみれのテーブルに置いてあるホットコーヒー用の角砂糖を食べつくすほどの超甘党。

 特にチョコが大好きで、よく勉強中にアーモンドチョコを食べていた。


「あたしの好み、覚えててくれたんだ……嬉しい!」


 夏鈴は感極まった感じで瞳を潤ませる。

 次の瞬間、飛びつくように抱き着いてきた。


「ちょ、夏鈴——!?」

「りっくんのそういうところ超好き!」

「す、好き——!?」


 不意打ちのように言われた好意の台詞に声が裏返る。

 しかも夏鈴に抱き着かれるのは再会して以来二度目のこと。

 あの時は下着姿だったから身体の柔らかさを言葉の通り肌で感じたけど、こうして制服に身を包んでいると、残念ながら半減されてしまっていて少し物足りない。

 それでも鼻をくすぐる女の子特有の甘い香りに理性が揺れる。


 煩悩にまみれた俺を正気に戻したのは周りの視線だった。


「うるせえから静かにしろや」

「図書館でイチャついてんじゃねぇよ」

「羨ましいのを超えて殺意すら覚えるんだが」

「ガキが人前でちゅっちゅしてんじゃないわよ!」


 目は口ほどにものを言うってのは本当らしい。

 刺さるような視線からテレパシーのごとく不満の声が脳内再生。

 ちなみに最後の台詞は司書のお姉さん、ちゅっちゅはしていません。


「夏鈴、他に人もいるからさ」

「あ、ごめんね。つい嬉しくて……えへへ」


 本音は離れてほしくないけど周りの視線的には離れてほしい。

 男子諸君なら理性と本能の狭間で揺れる純情な煩悩を理解してくれるはず。


 そして妙に男心を理解している夏鈴が俺の本心に気づかないはずもなく、離れる前にサービスとでもいうように胸を押し当ててくれたのは気のせいじゃないはず。

 夏鈴は俺から離れると照れ隠しのように髪をいじいじする。

 そんな仕草が可愛いらしくて余計に男心をくすぐられた。

 だけど、さすがに距離感が近すぎて心配になる。


「喜んでくれるのは嬉しいけど……なんていうか、あまり気軽に男に抱き着かない方がいいんと思うぞ。夏鈴に抱き着かれたら勘違いする奴もいるだろ」

「それなら安心して。あたし、軽く見られがちだけど身持ちは超固いから。ていうか、りっくん以外の男には死んでも触らないし触らせないから大丈夫」

「えっと……」


 それはどう安心したらいいんだろう?

 男として結構すごいことを言われた気がする。

 そんな俺の隣で夏鈴はアーモンドチョコを口に放り込む。


「勉強してると甘い物が欲しくなるんだよねぇ。なんでだろ?」

「たぶん脳が甘い物を欲してるんだろうな。勉強中に糖分を取ると脳のエネルギー源になるブドウ糖を補給できて、記憶力や集中力を高めることができるっていうし」

「へぇ~そうなんだ!」


 知らずに食べていたらしい。


「そういうことなら我慢せず食べていいよね♪」


 夏鈴は大量のアーモンドチョコを口に入れて頬を膨らませる。

 ポリポリ&カリカリ音を立てる様子はさながらハムスター。


「ん~めっちゃ美味しい♪」

「…………」


 それともう一つ、満足そうに微笑む夏鈴を眺めながら思うこと。

 抱き着かれたこともさることながら、さっきの『好き』って言葉……チョコを買ってきたことに対する感謝の意味で、異性に対する特別な意味じゃないよな?

 思わせぶりな台詞を真に受けて『俺のこと好きすぎるだろ』と勘違いして告白し『そういうつもりじゃないんだけど……』って振られた先人たちは数知れず。

 涙なしには語れない、いつの時代も繰り返されてきた悲しき青春の恒例行事。


 五年半前ならまだしも今さら勘違いしたりはしない。

 浮かれて同じ轍を踏まないように自戒を込める。


「もう一個食べよっと♪」


 それはさておき、幸せそうな表情を見ていると俺も食べたくなる。

 すると夏鈴はアーモンドチョコを俺の口元に差し出した。


「はい。あーんして♪」

「いや、さすがに人前で——むぐっ!」


 断る間もなく俺の口にチョコを押し込む夏鈴。

 続けて四個五個と入れられて俺までハムスター状態。


「どう? 美味しい?」

「ああ……ありがとうな」


 そうは答えたけど悠香の時と同じ。

 色々な意味で甘すぎてチョコの甘さがわからない。

 世の中のカップルが勉強デートをする理由が少しだけわかった気がする。効率はさておき、辛いテスト勉強も恋人と一緒なら素敵な思い出になるってことだろう。


 ただ、できれば人目を避けられる場所をおすすめしたい。

 さらに厳しくなった周りの視線が痛すぎる。

 ……マジでごめんなさい。



 その後、俺たちは大人しくテスト勉強を続けた。

 わからないところがあれば教え合い、座り疲れたら館内を軽く散歩しながら休憩し、頭が疲れたらアーモンドチョコを食べて集中力を維持しながら勉強を続ける。

 夏鈴の言っていた通り、誰かと一緒だとさぼり防止に効果絶大。


 気づけば十八時、閉館の時間まで勉強を続けていた。

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