第24話 夏鈴とデート①
悠香と買い出しに行った数日後。
中間テストまで一週間を切ったある日のお昼休み。
「……ん?」
教室で独り昼食を食べていると一通のメッセージが届いた。
ちなみに、なぜ独りかというと相変わらず友達ができないから。
最近は男子だけじゃなく、女子子からも軽蔑の眼差しを向けられている。
理由は先日、みんなで日帰り温泉施設に行った時のこと。
四人で貸し切り風呂に入るところを偶然居合わせた同級生に見られていたらしく、クラスどころか学年すらも越え、学校全体に俺のヤリチン疑惑が持ち上がった。
結果、全学年の女子生徒から女の敵認定される始末。
しかも噂を聞きつけた学年主任から呼び出され、菫さん同席のもと事情聴取を受けたんだけど、俺が必死に言い訳している隣で菫さんは腹を抱えて笑っていた。
高校生活が始まり早一ヶ月半……前途多難すぎて泣けてくる。
そんな悲しすぎる余談はさておき。
「誰からだろ」
スマホを手にしてメッセージアプリを開く。
すると夏鈴からのお誘いの連絡だった。
『今日の放課後デートしない?』
「……デート?」
口にしたままのメッセージを送り返すと。
『そう。テストも近いし図書館で勉強デート♪』
「いやいや」
一緒に勉強するのはデートじゃないだろ。
そう返信する前に検索してみると『勉強デート』という結果が表示された。
なんでも彼氏彼女の家で一緒に勉強したり、カフェなどで勉強したり。基本的にカップルや仲の良い男女が一緒に勉強すれば場所を問わず勉強デートと呼ぶらしい。
うん……色々な意味で勉強どころじゃなさそうな気がする。
残念ながら定期テストに保健体育の実技は含まれない。
不健全な妄想はともかく夏鈴と一緒に勉強か。
『一人だとついサボっちゃうんだよねぇ』
その気持ちはわからなくない。
明日からやろうと先送りし続けて気づけばテスト前日。
そんな絶望を味わったことがある学生は俺も含めて多いはず。
『誰かと一緒だとさぼり防止になるかなって。それに、最近は猫まみれの片付けに夢中で勉強そっちのけだったから結構やばくて。付き合ってくれると嬉しいな~♪』
そう言われると再建を言い出した立場としては断れない。
まぁ俺のさぼり防止にもなるし付き合うか。
オーケーのスタンプを送ると。
『学校が終わった後、中央図書館に集合ね!』
メッセージと一緒にありがとうのスタンプが送られてきた。
「夏鈴と一緒に勉強するのも久しぶりだな……」
懐かしさに浸っていると、ふとあることを思い出す。
「そうだ。夏鈴と勉強するならアレが必要だよな」
それは昔から二人で勉強する時の必需品。
途中でコンビニに寄って買っていこう。
放課後、学校を後にした俺は自転車で図書館に来ていた。
ここは市内に複数ある図書館の中でも一番大きな中央図書館。
六階建ての立派な建物には一階から三階まで市の総合保健センターが入っていて、四階と五階が図書スペース。最上階の六階が学生向けの自習室になっている。
自転車をとめて中へ入り、待ち合わせ場所の自習室へ向かう。
廊下から中を覗くと夏鈴の姿はなかった。
「先に場所を押えておくか」
静まり返る自習室の中、窓際の席に座り夏鈴を待つ。
しばらく窓の外を眺めていると。
「お待たせ♪」
不意に肩を叩かれて振り返ると、笑みを浮かべる夏鈴の姿があった。
再会して以来、会うのは決まって猫まみれだったこともあって私服姿かジャージ姿の二択。こういう女子高生らしい姿を見る機会はなかったからだと思う。
初めて見る夏鈴の制服姿に思わず見惚れた。
「りっくん、どうかした?」
「夏鈴の制服姿、初めて見るから新鮮でさ」
「そっか。でも、うちの制服って少し地味なんだよねぇ」
夏鈴は不満そうに着ている制服に視線を落とす。
「そりゃ名門女子高なんだから仕方ないだろ」
夏鈴の通う花女は創立百年を超える由緒正しき伝統校。
校訓は誠心誠意、清廉潔白、明朗闊達——学業も運動も真摯に取り組み、いかなる時も清く正しく心美しく、明るく前向きな女性を育てることを教育理念としている。
そんな高校が女子受けを気にした可愛い制服だったら逆に困る。
「でも、言うほど地味じゃないと思うけどな」
たぶん金髪ギャル基準で見たら地味なだけで普通に可愛い。
「良く似合ってると思うぞ」
「ほんと? りっくんが褒めてくれるなら我慢しよ」
「ちなみに金髪にしてるのは怒られないのか?」
「うん。そのあたりは意外と緩いの」
マジか。
「多様性ってやつ?」
「なるほど。時代なんだろうな」
最近は多様性が尊重される一環で髪色自由のところが増えている。
たとえば大手ファストフード店も髪色の規定をなくしたし、中には髪色だけじゃなく髪型、アクセサリーやネイルも自由なところも増えているとニュースで見た。
お客様の理解を得られるよう張り紙をしている店舗もあるくらい。
「もちろん、固い学校だから厳しいところは厳しんだけどね」
そう言いながら夏鈴は隣に腰を掛けたんだけど。
「……ちょっと近すぎないか?」
「そんなことないんじゃない?」
いや、めちゃくちゃあるだろ。
四人掛けの席なのに右半分が空いている。
「さすがに近すぎて勉強しづらいと思うんだけど」
「でも近くないと声が聞こえないでしょ?」
確かに、図書館は静かにするのがマナーだから小声で話す必要がある。
距離が離れるほど声を大きくしないと聞こえないことを考えれば、傍に寄るにこしたことはないんだけど、それにしても近いっていうか……ほぼ密着レベル。
夏鈴の甘い香りが漂ってきて勉強に集中できるか少し心配。
ていうか夏鈴のパーソナルスペース狭すぎないか?
「今日は勉強に付き合ってくれてありがとね」
「こちらこそ誘ってくれて助かったよ。俺も一人で勉強するとさぼりそうだし、わからないところがあれば夏鈴に教えてもらえるしな」
「そんな、あたしが勉強を教えるなんて無理だよ」
「県内トップクラスの女子高に通ってるんだから謙遜するなって」
「ちょっと勉強ができるからって教えるのが上手いとは限らないでしょ? それに昔から国語はりっくんの方が得意だったし。むしろあたしが教えてほしいくらい」
確かに、思い返せば夏鈴は国語が大の苦手だったな。
逆に俺は国語だけは得意でよく教えてあげていた。
「相変わらず国語は苦手なのか?」
夏鈴は苦虫でも噛み潰したような顔をして頷く。
「なんで日本人なのに日本語の勉強しなきゃいけないのって授業の度に思ってる。まだ現代文は納得できるけど、古典なんてもう日本語じゃなくない?」
まぁ気持ちはわかるよ。
「わからないところは教え合おう」
「うん。頼りにしてるからね♪」
さっそく教科書とノートを開いて勉強を始めた。




