第22話 悠香とデート②
その後、お会計を済ませてホームセンターを後にした俺たち。
スマホで時間を確認すると十一時半を少し過ぎたところ。
「こんな時間だし、どこかでお昼でも食べて帰るか」
「それなら、あそこのお弁当屋さんで買って食べようよ」
「あそこのお弁当屋さん——?」
疑問の声を漏らすと同時に思い出す。
悠香が言っているのは当時よく利用していたお弁当屋さんのこと。
俺の父親も悠香の両親も週末に仕事が入ることが多く、土日も猫まみれのお世話になることが多かった。そんな時、お昼に決まって利用していた近所のお弁当屋さん。
悠香はいつも同じお弁当を買っていた。
「懐かしいな。あのお弁当屋さん、まだやってるのか?」
「うん。あの味が忘れられなくて、今でもたまに買いに行ってるの。今日は天気がいいから芝桜公園で芝桜を眺めながら食べるのなんてどう?」
「芝桜公園か……確か今が見頃だったよな」
芝桜公園とは猫まみれから歩いて三十分の場所にある芝桜の名所。
三ヘクタールに及ぶ広大な丘に二十五万株の芝桜が咲き誇る観光スポット。
見頃を迎える今の時期は芝桜祭りが開催され、週末になると農産物や物産品の販売、飲食店やキッチンカーが出店することもあり市内外から多くの観光客が訪れる。
当時、悠香と一緒に行った思い出の場所の一つだった。
「いいね。そうするか」
「うん!」
俺たちはお弁当屋さんに立ち寄り好きなお弁当を注文。
お弁当を受け取ると、とりあえず荷物を置きに猫まみれに向かう。
猫まみれまでは歩いて十五分の距離だけど、荷物を手にしているせいか結構きつい。この辺りは山の麓ということもあり緩やかな坂道になっているからなおさら。
「悠香、大丈夫か?」
一歩遅れて後ろを歩く悠香に声を掛ける。
「うん……大丈夫」
すると笑みを浮かべながら申し訳なさそうに視線を逸らした。
その姿を見た瞬間、子供の頃に何度も目にしていた悠香の癖を思い出す。
悠香は体調について聞かれると、本当は辛くても『大丈夫』と嘘を吐いていた。
相手を心配させまいとする優しい嘘とはいえ、心配してくれる人を騙すことに後ろめたい気持ちもあったんだろう……無意識に目を逸らすのが癖だった。
それは八年が経った今も変わらない。
事実、大丈夫と言いながらも辛そうなのは明らか。
思い返せば日帰り温泉の帰りに聞いた時も目を逸らしていた。
「悠香って昔から嘘を吐くのが下手だよな」
「え? どういうこと?」
俺は荷物を左手に持ち替えて右手を差し伸べる。
「……ありがとう」
「えっ——?」
悠香は一瞬ためらいながらも俺の手を握る。
不意に手のひらに感じた温もりに心臓が跳ねた。
驚きすぎて恥ずかしさを覚える前に思考がストップ。
「凛久、どうかした?」
悠香の呼ぶ声で我に返った瞬間、急激に体温が上がるのを自覚する。
顔を見られないように隠したいけど両手が塞がっていて隠せない。
「えっと、荷物を持ってやろうと思ったんだけど……」
「え……そ、そうなの? 勘違いしちゃった……」
悠香は誤魔化すように笑みを浮かべてみせる。
手を放そうとすると、悠香は引き留めるように握り直した。
「荷物を持ってもらうより手を引いてもらう方が楽かも」
「お、おう……悠香がそう言うなら」
「うん……ありがとう」
八年ぶりに悠香の手の温もりを感じながら道を行く。
あの頃よりも柔らかく感じるのは気のせいか、それとも年頃の女の子特有の感触か。今まで手で触れた物の中で一番の柔らかさに意識せずにはいられない。
繋いでいる手から伝わってしまったんだと思う。
「凛久、ちょっと緊張してる?」
「……そりゃするだろ」
「昔はよく手を繋いでくれてたのに?」
「当時とは状況が違うだろ。それに、もうお互い高校生だしさ」
「それは私のこと女の子として意識してるってこと?」
「……ノーコメントでお願いします」
否定しないってことは肯定しているようなもの。
「ふふ……そっか。意識してるんだ」
悠香は繋いだ手をぶんぶん振りながら上機嫌。
辛そうにしていたのが嘘みたいに満面の笑みを浮かべた。
「凛久の言う通り、確かに昔とは違うよね。でも、あの頃と変わらないところもある。こうして手を引いてくれる凛久の優しさとか、私の歩幅に合わせてくれる気遣いとか」
「……褒めてもなにもでないぞ」
「それは残念」
でも、確かに悠香の言う通りかもしれない。
緊張もするし恥ずかしさもあるけど、幼い頃に悠香と手を繋いで歩いていたことを思い出すと、心の中は恥ずかしさよりも懐かしい気持ちでいっぱいになる。
二人の間に流れる空気は、悠香の癖と同じく今も変わらない。
とはいえ、デート開始直後からずっと照れっぱなし。
このままだと恥ずか死するかもしれない……。




