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第19話 初めての混浴

「おお……いい雰囲気だな」


 ドアを開けると、目の前には情緒溢れる和の空間が広がっていた。

 い草の爽やかな香りが漂う八畳ほどの部屋には木製のテーブルと椅子が備え付けられていて、ガラス張りの窓の向こうには二つの洗い場と檜造りの半露天風呂。 

 温泉が注がれる風情のある音が部屋の中まで響いていた。


「じゃあ、悠香と莉乃さんはここで着替えて。あたしとりっくんは洗面所で——」


 俺の手を掴んで洗面所に向かおうとする夏鈴。


「ちょっと待って」

「ぐぇっ——!」


 その首根っこを悠香が思い切り引っ張った。


「い、息ができないでしょ!」

「夏鈴がバカなことしようとするのが悪い」

「なんで毎度毎度あたしの邪魔をするわけ!?」


 悠香は文句を言う夏鈴を問答無用で洗面所に押し込む。


「私たちは洗面所で着替えるから、凛久は先に入ってて」

「あ、ああ……わかった」


 洗面所に消えていく三人を見送り、湯あみ着に着替えてお風呂場へ。

 洗い場に腰を掛けて身体と髪を洗ってから湯船に身を沈める。


「はああぁ……」


 全身を包む温泉の温かさに思わず声が漏れた。

 最初は少し熱く感じたけど慣れてくるとちょうどいい湯加減。

 とろみのある柔らかな泉質だからだろう。温かさが身体にまとわりつくような不思議な肌あたり。普段入っている家のお風呂とは比べものにならないほどの心地よさ。

 瞳を閉じてリラックスしていた時だった。


「お待たせ~♪」


 ドアの開く音とともに夏鈴の声が響く。

 視線を向けると湯あみ着に身を包んだ三人の姿。

 みんなが着ていたのは長めのワンピースみたいな服だった。


 夏鈴は水着みたいなものだと言っていたけど露出は少なめ。

 これなら薄手の夏服の方が肌色面積が広く、健全に不健全な男子的には物足りなさを覚えずにはいられない。

 その証拠に最初は恥ずかしがっていた悠香も平気そう。

 そんな感想が顔に出ていたんだろう。


「りっくん、ちょっと残念な感じ?」

「そ、そんなこと言ってないだろ!」


 滅茶苦茶残念なんて口が裂けても言えない。

 ひとしきり俺をからかうと夏鈴と悠香が身体を洗い始める。

 髪が短めの悠香はともかく、ロングヘアーの夏鈴と莉乃さんは洗うのが大変そう。女の子が身体を洗う姿なんて滅多に見られるものじゃないから得した気分。

 しばらく眺めていると洗い終えた順に湯船に浸かり、揃って表情を蕩けさせた。


「やっぱり仕事後の温泉は最高だよね~♪」

「化粧水みたいにとろとろしたお湯で気持ちいい」

「この温泉はお肌にいい美肌の湯と呼ばれているんです」


 思い思いに感想を述べる三人を眺めながら思う。

 湯あみ着を見た時は残念に思ったけど……これはこれで悪くないかも。

 露出的な満足度は低いんだけど、誰もが羨む美少女三人と同じお湯に浸かっている優越感。湯あみ着も見方によっては着エロ的なフェティシズムを感じさせる。


 大きく開いた肩回りと、長い髪をアップにしていることで覗くうなじ。

 肌に吸い付く湯あみ着が魅せる女性特有の扇情的なシルエット。

 片付けを頑張ったご褒美代わりに堪能していると。


「せっかくだし今後の話でもしておかない?」

「そうだな。そうしよう」


 煩悩を振り払って頭の中を切り替える。


「みんなのおかげで三分の一は片付いたと思う。悪くないペースだと思うけど、できればゴールデンウィーク中に半分は終わらせたかったのが本音なんだよな」


 当初の予定では夏休みに入るまでに片付けを終えるつもりでいた。

 余裕のあるスケジュールだと思っていたけど、中間テストや期末テスト期間中は作業できないことを考えると、思っていた以上に稼働できる日数は限られてくる。

 たぶん今のペースだと夏休み前には終わらない。


 その旨をみんなに伝えると。


「そうだよね……絶対に夏休み前に終わらせなくちゃいけないってわけじゃないけど、一日も早く再建することを考えれば早めに終わらせたいよね」


 俺の気持ちを察したように悠香が続けた。


「まぁ焦っても仕方がない。無理せず怪我のないように進めよう。とはいえ、そろそろ片付けを終えた後のこと——つまり、掃除に取り掛かる準備はしておきたいな」

「掃除の準備っていうと、箒とか雑巾とか買っておく感じ?」


 夏鈴の質問に答えるように頷く。


「祖父母が使っていたお掃除用品が物置小屋にあると思いますが、本格的に掃除をするとなれば必要になる物もあるでしょう。家にある道具を持ち寄るのも方法ですけど、足りない物はホームセンターでまとめ買いをするのもいいと思います」

「そうですね。今週末にでも買いに行こうと思います」

「それなら私も付き合う!」


 そう申し出てくれたのは悠香だった。


「付き合ってくれるのは嬉しいけど、テスト勉強はいいのか?」

「一日くらい平気。荷物持ちは多い方がいいでしょ?」


 すると夏鈴が悔しそうな表情を浮かべる。


「あたし今週末は予定があるんだよね……」

「わたしも所用があるので、ごめんなさい」


 その隣で莉乃さんも難しい表情をしていた。


「二人とも気にしないでください。気持ちだけ充分です」


 こうして今週末、悠香と二人で掃除用品の買い出しに行くことが決定。

 それから俺たちは終了時間まで歓談しながら裸の付き合いを楽しむ。

 今後も作業後はちょくちょく温泉に寄ろうという話になった。


 ぜひとも次回も貸し切り風呂でお願いしたい。

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