第18話 貸し切り風呂
そんなわけで日帰り温泉施設にやって来た俺たち。
改めて、ここは昔から地元の人たちに愛され続けている憩いの場。
以前はシンプルに温泉を楽しむ施設だったけど、近年のサウナブームや女性に人気の高い岩盤浴の流行り乗り、数年前にスパとしてリニューアルした温活施設。
スマホで調べたら最近流行りの高濃度炭酸泉もあるらしい。
特に岩盤浴に力を入れていて、様々な鉱石や薬石を使用している他、ヒマラヤ岩塩を敷き詰めた部屋は肌トラブルの改善に効果が見込まれると女性に大人気。
地元客はもちろん遠くから足を運ぶ女性客も多くいるらしい。
その証拠に、受付には若い女性が列をなしていた。
「すいぶん混んでるんだな」
「今日はいつもより多いと思います」
「莉乃さん、よくここに来るんですか?」
「家が近くなので岩盤浴を利用しに来るんです」
「いいな~。あたしも近くに住んでたら毎週通うのに」
夏鈴じゃないけど俺も近くだったら通いたい。
そうこうしている間に列は進んで受付へ。
「えっと、高校生四人で——」
みんなにはいつも頑張ってもらっている。
ここは俺が払おうと思い料金を尋ねた時だった。
「貸し切り風呂って空いてますか?」
「「「貸し切り風呂?」」」
思わず俺と悠香と莉乃さんの声が重なった。
笑顔で『ご利用可能です』と答える女性店員さん。
「夏鈴、貸し切り風呂って、まさか……」
「来る途中にスマホで調べたら五人くらいで入れるお風呂があるんだって。今日は混んでるから貸し切りの方がよくない? みんなで借りれば一人あたり安く済むしさ」
やっぱり四人で入ろうと思っているらしい。
「いや、さすがにそれは——」
「ダメに決まってるでしょ!」
俺の気持ちを代弁したのは顔を真っ赤にした悠香だった。
「年頃の男女が一緒にお風呂なんて……なに考えてるの!?」
「嫌なら三人で入るから、悠香だけ大浴場に入れば?」
「私だけ別ならいいって話をしてるんじゃない!」
さすがに並んでいるお客さんたちの視線が痛い。
「悠香の肩を持つわけじゃないけど一緒はまずいだろ」
「裸の付き合いも悪くないって言ったのはりっくんでしょ?」
「いや……確かに言ったけどさ」
それは女子三人の親交を深める意味です。
なんて言ったところで夏鈴が納得するはずもない。
「凛久も嫌がってるんだからダメ!」
「ほんと、これだからお子様は……」
すると夏鈴は呆れ混じりに溜め息を漏らす。
「男の子はね、口では嫌と言っても本音は一緒に入りたいものなの。女の子の前で一緒に入りたいなんて言ったら軽蔑する人もいるんだから、できる女は男心を察して『俺は断ったけど誘われたから仕方がない』って言い訳を用意してあげるものよ!」
「ほ、本当に——!?」
信じる悠香をよそに、夏鈴は俺の耳元で『ね……りっくん♪』と妖艶に囁く。
いつもと変わらず思春期男子の本音に理解があるのは感心するんだけど、女性客に 囲まれた中で叫ばれると困る。頼むから俺の心の声を赤裸々に暴露しないでくれ。
やっぱり図星すぎて黙り込む俺を見て悠香は絶望に表情を歪める。
その隣で莉乃さんは満更でもない感じで頬を染めていた。
「凛久は夏鈴の言う通り一緒に入りたいの?」
「えっ! いや、それは……」
俺に限らず健全な男子高校生ならみんな入りたいです!
なんて言ったら二度と口を聞いてもらえなくなくなりそう。
黙り込む俺を見て悠香は羞恥に満ちた表情でなにかを決意する。
「わかった。それなら私も一緒に入る——」
い、いいんですか——!?
心の中で喜びかけると。
「ていうか、もしかして勘違いしてない?」
「「「勘違い?」」」
「裸の付き合いって、別にほんとに裸で入ろうって話じゃないよ? 貸し切り風呂なら湯あみ着をレンタルできるから、それを着て入るつもりで言ってるんだけど」
「……湯あみ着?」
首を傾げる俺に話を聞いていた店員さんが説明してくれる。
湯あみ着とは、一言で言えば入浴の際に着るお風呂専用の服のこと。
本来は怪我の跡や体形を気にする人、人前で裸になることに抵抗がある人のための物らしく、大浴場や露天風呂は着用不可だけど貸し切り風呂はオーケーらしい。
利用毎にお湯を張り替えるから衛生的に問題ないからとのこと。
「みんな裸で入ると思ってたんだ~エッチなんだから♪」
「下着姿で凛久に抱き着いてた人に言われたくない!」
「下着姿で……りっちゃんに抱き着いてた?」
事情を知らない莉乃さんが不思議そうに首を傾げる。
「なんでもないです。莉乃さんは気にしなくて大丈夫ですから!」
余計に話がこじれないよう必死に話題を逸らす。
できればその話題にはもう触れないでほしい。
本音はまた下着姿で触れてほしいけど。
「水着みたいなものだと思えば平気でしょ?」
そう言われると断る理由がなくなる。
「悠香と莉乃さんはどうする?」
「わたしは湯あみ着を着られるなら大丈夫です」
「恥ずかしいけど、夏鈴と二人で入らせるくらいなら」
結果、二人もオーケーということで貸し切り風呂を利用することに。
受付を済ませて湯あみ着を借り、施設内の奥にあるか貸し切り風呂へ向かった。