第17話 美少女たちと温泉
その後、俺たちは二週間に渡り片付けを続けた。
いざ片付け始めてみると想像以上のゴミの量に驚かされる。
時折懐かしい物も出てきて、みんなで思い出に浸りながら作業を進める。
細かなゴミは収集袋に分別し、雑誌や段ボールは紐で縛り、大きなゴミは菫さんの軽トラで運び出す。そうしてクリーンセンターを往復すること十回近く。
気づけば五月になりゴールデンウィーク最終日。
「ようやく三分の一くらいってところか」
「うん。思ったより時間が掛かりそうだね」
一緒に作業をしていた悠香とキッチン内からホールを見渡す。
テーブルの上には食器の他にもキッチン用品が並び、座敷や休憩しつから運び出した玩具や小物。子供向けの絵本や漫画の他、タオルやおしぼりも並んでいる。
他にも細々したものは段ボールに詰めて床に置いてあった。
「こっちも今日の分は終わったよ!」
座敷の片付けを終えて戻ってくる夏鈴。
「最初はどうなることかと思ったけど意外となんとかなるもんだね♪」
「みんなが頑張ってくれたおかげだよ。本当に感謝してる」
「感謝なんていいの。みんな好きでやってるんだから」
「そうそう。悠香の言う通り」
一緒に作業をしているおかげか、悠香と夏鈴も少し仲良くなっていた。
時折ぶつかることはあるけど、なんだかんだ嫌いじゃないんだと思う。はたから見ていると、性格は違うけど同じ目標を共有する仲間意識みたいなものを感じる。
少年漫画的にいえば良きライバルみたいな感じ。
「それでもお礼くらいは言わせてくれ」
俺が『ありがとう』と伝えると二人は照れくさそうに笑みを浮かべた。
もちろん、今クリーンセンターにゴミを捨てに行ってくれている莉乃さんと菫さんにも心から感謝している。帰ってきたら二人にも感謝の言葉を伝えよう。
店内の掛け時計に目を向けると十七時を過ぎたところ。
そろそろ帰ってくる頃だと思っていると。
「ただいま帰りました」
タイミングよく莉乃さんが戻ってきた。
「ゴミ出し、ありがとうございました。菫さんは?」
「この後に予定があるそうで、わたしを降ろして帰りました」
「そうですか。菫さんにもお礼を言いたかったんですけど……」
明日学校で伝えればいいだろう。
「今日の作業はこれで終わり。また週末に集まろう」
「それなんだけどぉ……」
すると夏鈴が申し訳なさそうに手を上げる。
「続きは中間テストが終わってからだと助かるなって」
「ああ、そうか……もうそんな時期か」
うちの高校の中間テストは五月の四週目だから再来週。
夏鈴の通う花女も同じ日程らしく、確かに勉強を始めた方がいい頃合い。
さすがにテスト前に付き合わせるわけにはいかないよな。
「次回はテスト明けにしよう。お疲れさまでした」
「「「お疲れさまでした!」」」
こうして帰り支度を始める俺たち。
さすがに疲れたから早く帰って休みたい。
「ねぇねぇ、りっくん」
なんて思っていると、夏鈴が髪をいじりながら話し掛けてきた。
「もし時間があれば温泉に入って帰らない?」
「温泉? ああ、そういえば近くにあったな」
ここから歩いて十五分くらいの場所にある日帰り温泉施設。
小学生以下は無料だから引っ越す前に何度か行ったことがある。
「髪が埃まみれでギシギシするから今すぐ洗いたいんだよね」
夏鈴は長い金髪を両手でとかしながら言うんだけど。
「そうか? いつも通りサラサラに見えるけどな」
「そんなことないよ。ちょっと触ってみて」
そう言って俺の顔の近くに頭を近づける夏鈴。
触ってみてと言われても……そんな気軽に触れていいんだろうか?
髪は女の命って聞くし、女の子同士ならともかく男が気軽に触っていいものじゃないと思うんだけど、夏鈴は全く気にする様子もなく俺が確認するのを待っている。
「じゃあ、失礼します……」
思わず丁寧語で答えたのは緊張しているせいだろう。
そっと触れると、まるで絹のようにさらりと手から滑り落ちた。
「いや……めちゃくちゃサラサラなんだけど」
「そんなことない。ほんとはもっと滑らかだもん」
これよりサラサラって、ちょっと想像がつかない。
そんな俺たちを不満そうに見つめる悠香の視線はさておき。
「温泉か……」
俺も全身が埃っぽいし、なにより疲れが溜まっている。
男手が一人ということもあり、率先して重い物を運んだり軽トラにゴミを積み上げたりしていたから、ゴールデンウィークの途中から筋肉痛が酷かったんだよな。
温泉で温まれば身体が楽になるかもしれない。
「そうだな。時間もあるし——」
「私も一緒に行く!」
俺より先に悠香が食い気味に答えた。
「ちょっと、悠香は誘ってないでしょ!」
「誘われてないけど一緒に行っちゃダメな理由はないでしょ? それとも私が一緒だと不都合でもあるの? まぁダメって言われても私は私で行くけど」
「ぐぬぬぬ……」
何度目かわからない一触即発の空気が辺りを包む。
喧嘩するほど仲が良いってことにしておいてほしい。
「まぁまぁ、みんなで行けばいいだろ」
せっかく芽生えたかけた仲間意識を壊したくない。
俺は二人がヒートアップする前に割って入る。
「仲間なんだし裸の付き合いも悪くないだろ?」
「……りっくんがそう言うなら別にいいけどぉ」
「ありがとうな」
不満そうな夏鈴をなだめながら莉乃さんに声を掛ける。
「そんなわけで、莉乃さんも一緒に行きませんか?」
「わたしもご一緒していいんですか?」
「みんなでって言ったじゃないですか」
さすがに莉乃さんだけ仲間外れになんてしない。
むしろ俺一人じゃ心配だから来てほしい……。
「では、お言葉に甘えさせてもらいます」
俺たちは早々に帰り支度を済ませて猫まみれを後にした。




