第16話 意外な決着
「「「よろしくお願いします!」」」
俺たちは前のめりに構えながら莉乃さんの読み上げを待つ。
『草津よいとこ薬の温泉——』
「はぁい♪」
読み上げた直後、掛け声とともに夏鈴が絵札を押えた。
あまりの速さに驚きを超えてちょっと引くレベル。
「夏鈴、もしかして未だに全札覚えてるのか?」
「当然。県民として最低限の嗜みじゃない?」
夏鈴は悠香に向かいドヤってみせる。
「いいから次、早く構えて」
悠香は気にする様子もなく絵札に集中。
『紅葉に映える妙義山——』
「はいっ!」
瞬間、夏鈴を上回る速さで悠香の手が絵札をはじく。
あまりのスピードに絵札は座敷の隅まで飛んでいった。
「自分だけが全ての札を覚えてるなんて思わないで」
「ふんっ……面白くなってきたわね!」
ドヤ顔で返す悠香と不敵な笑みを浮かべる夏鈴。
序盤から白熱する二人の戦いを前にしてふと思い出す。
当時、悠香は病気のため外で遊ぶことができなかった代わりに、上毛かるたをはじめとする室内の遊びで無類の強さを誇っていた。
対して夏鈴は勉強ばかりしていたけど、持ち前の頭の良さもあり他の子供を圧倒し、挑戦者がいなくなるほどの無双状態。
まさに数年の時を経て実現した新旧女王対決。
「「絶対に負けない——!」」
こうなると俺が手出しできるはずもない。
気づけば三人で始まった戦いは悠香と夏鈴の一騎打ち。
ただ、俺が手出しをせず眺めている理由は他にもあって……。
「はぁい♪」
「はいっ!」
「…………」
二人が札を取る度に胸元から覗く下着がチラ見えしまくり。
それもそのはず、二人は集中すればするほど前屈みというか前傾姿勢というか、サバンナで獲物を狙う雌豹のようなポーズを取るもんだから胸元の警戒心がゼロ。
夏鈴の黒い下着と悠香の白い下着が織りなす夢のコラボレーション。
言い換えるなら、漆黒の悪魔と純白の天使の最終決戦。
目の保養すぎて勝負に集中できるわけがない。
「なかなかやるじゃない……悠香」
「夏鈴こそ、ここまでとは思わなかった」
戦いは一進一退、お互いに譲らず取っては取り返す展開。
終盤、二十一枚ずつを手にして残り二枚となった。
「「次が最後ね……」」
この場合、上毛かるたでは次の札を取った方が二枚獲得するルール。
ちなみに勘のいい人なら気づいていると思うけど、偶数枚の上毛かるたでは同点になる場合がある。その場合は『つ』の札を持っている方が勝ち。
泣いても笑っても次の一手で勝負が決まる。
「「…………」」
座敷の空気が張り詰める中ふと思うこと。
正直、この勝負はどちらが勝っても禍根が残る。
人間同士だから合う合わないがあるのは仕方ないけど、これから長期に渡り猫まみれの再建を行っていく上で、仲間内で揉めるようなことはできるだけ避けたい。
勝負が始まった時は諦めていたけど、この状況なら話は別。
絵札を見つめる二人を横目に莉乃さんへ視線を向ける。
「「…………」」
アイコンタクトという名の無言の意思疎通。
莉乃さんは穏やかに微笑むと口を窄めて『つ』の形を作る。
どうやら俺の意図を正しく受け取ってくれたらしい。
当然、夏鈴と悠香は集中していて気づいていない。
『つる舞う形の群馬県——』
莉乃さんが最後の札を読み上げた瞬間だった。
「「え——?」」
悠香と夏鈴の驚きに満ちた声が座敷に響く。
なぜなら最後の絵札を押えたのは俺の手だったから。
「これで負けは俺一人。二人の引き分けだな」
これが勝負を見届けながら気づいた丸く収める唯一の方法。
最後の二枚を俺が取れば、悠香と夏鈴の勝負は二十一枚ずつでドロー。最初から二人の個人戦だったら無理だったけど、三人で遊ぶ変則ルールだからできた収め方。
不正はあったけど穏便に済ませるためだから許してほしい。
「仕方ないか……」
「……そうね」
二人も納得した様子で緊張を緩める。
「「「ありがとうございました」」」
礼に始まり礼に終わるのも上毛かるたのルール。
安堵にひと息吐こうとしたら。
「次はドンジャラで勝負よ!」
夏鈴が押し入れからドンジャラ取り出した。
「二度と勝負を挑む気が起きないよう叩きのめしてあげる!」
「いや……片付けしようぜ」
そんな言葉が二人に届くはずもない。
まぁ初日くらいは思い出に浸ってもいいだろう。
そんなこんなで懐かしの遊びを楽しんでいると気づけば夕方。
ちなみに他の遊びは全て莉乃さんが圧勝したことだけ報告しておく。いつもニコニコポーカーフェイスの莉乃さんが、実は歴代最強女王だったのを忘れていたよ。




