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第15話 懐かしの遊び

「さて、俺たちも始めるか」

「うん。一緒に頑張ろうね!」


 悠香は胸の前で小さくガッツポーズ。

 美少女はそんな仕草すら可愛いから困るよな。


「重い物は俺が持つから、悠香は軽めの物を頼むよ」

「うん。まかせておいて」


 さっそくカウンターの中に入って次々に棚の扉を開けていく。

 すると、わかってはいたことだけど驚くほど多くの食器やグラスが出てきた。他にも調理器具や細かなキッチン用品、賞味期限の切れた調味料もたくさん出てくる。

 足元の棚を開けるとキャットフードや猫缶もたくさん出てきた。

 莉乃さんが全く手を付けていないと言っていた言葉の通り。


 そんな光景を前にふと思った。


「たぶん、手をつけなかったんじゃなくて……」

「うん……きっとつけられなかったんだろうね」


 そう思ったのは、まるで時間がとまったかのように当時のままだったから。

 片付けとは物を整理するだけじゃなく、想いも一緒に整理するもの。片付けをすることで二人の思い出も片付けてしまうようで手をつけられなかったんだろう。

 事実、俺たちですら手がとまってしまう。


 それでも前に進むためには必要なことだと自分に言い聞かせる。

 子供たちや猫たちのためだけじゃない。莉乃さんはもちろん、その家族のためにも昔の姿を取り戻したい。俺たちに任せて良かったって言ってもらえるよう。


 そんな想いを胸に作業を続け三十分ほど経った頃だった。


「ねぇ凛久、見て!」


 不意に悠香が声を上げ、何事かと思いながら振り返る。

 すると見覚えのあるマグカップを手に持っていた。


「これ、覚えてる?」


 それは黒猫のイラストが描かれた白いマグカップ。

 猫のイラストが描いてあるマグカップならいくらでも見かけるけど、このマグカップの面白いところは、イラストに合わせて取手の部分が猫の尻尾になっている点。

 遊び心のある可愛らしいデザインがお気に入りだった。


「それ……俺が使ってたマグカップだよな?」

「そう。私が使ってたのも残ってるよ」


 もう一つ掲げたのは同じデザインの三毛猫バージョン。

 当時、俺たちはお揃いのマグカップを使っていた。


「懐かしいな……」 


 マグカップ受け取り、しばし懐かしさに浸る俺たち。

 当時、猫まみれに通う子供は全員が猫柄のマイカップを使っていた。

 マイカップといっても家にある物を持ち込んだんじゃなく、おばあちゃんが用意してくれたもので、子供が増える度に新しいマグカップを用意してくれていた。

 なぜ猫柄ばかりなのかは説明するまでもない。


「嬉しいな。私が通ってたのなんて八年近くも前なのに……」

「いつ帰ってきてもいいように残しておいてくれたんだろうな」


 学童保育なんて大きくなれば自然と通わなくなるもの。

 忘れることはなくても、俺たちみたいに好んで足を運ぶ奴は少ない。

 それでも、いつか帰りたくなった時。辛いことがあって独りじゃいられない時。このマグカップを手にひと息吐ける『もう一つの家』のような場所として残したい。

 いつか、おじいちゃんとおばあちゃんが言っていた言葉を思い出す。

 そんな想いを象徴するように全て大切に保管されていた。


「「…………」」


 二人の想いに触れて胸が詰まる。


「マグカップは全部取っておいていいよね?」

「ああ。そうしよう」


 近くにあったダンボールに一つ一つ丁寧に詰めていく。

 マグカップをテーブルに運び終えた時だった。


「りっくん、これ見て!」


 座敷から出てきた夏鈴がしんみりした空気を吹き飛ばすように声を上げる。

 その手に持っていた物を見た瞬間、懐かしさのあまり声が漏れた。


「それ、上毛じょうもうかるたか?」

「そう! 懐かしくない!?」


 上毛かるたとは俺たちの住む群馬県で発案された郷土かるたのこと。

 特定の地域の歴史や文化を詠んだかるたのことを郷土かるたといい、昔はブームになり全国で千種類以上が発案されたらしいけど現在はほぼ残っていない。

 上毛かるたは今も楽しまれている貴重な郷土かるたの一つで、昔は幼少期を群馬県で過ごした人なら読み札を全て暗記しているのが当たり前だったらしい。

 それほど広く県民に愛され続ける歴史のある遊びだった。


「よく一緒に遊んだよね」

「ああ。そうだったな……」


 みんなで座敷に集まって遊んだ記憶が蘇る。

 俺たちが子供の頃にはスマホも普及していたし携帯ゲーム機もあった。

 でも、猫まみれには上毛かるたをはじめ昭和に流行った懐かしの玩具がたくさんあり、いわゆるテレビゲームしか知らない俺たちにとって逆に目新しい遊びだった。

 特にベーゴマという名の昭和版ベイブレードは男子に人気があった。

 探せば花札とかドンジャラとかも出てくるかも。


「ねぇ、せっかくだから四人でちょっと遊ばない?」


 おいおい、まだ片付け始めて一時間も経ってないだろ。

 なんて台詞、懐かしの遊びを前に言えるはずもない。


「少しだけだぞ」

「そうこなくっちゃ♪」


 そんなわけで作業は中断、莉乃さんも呼んで座敷に集まる。

 上毛かるたを詠み札と絵札に分けると畳に絵札を並べて四人で囲う。


「久しぶりだから最初にルールを確認しよう」


 上毛かるたには主に二つの公式ルールが存在する。

 一対一で行う個人戦と、三対三のチームで行う団体戦。

 個人戦で総当たりにすると六試合と時間が掛かるし、二対二で団体戦をするにしても読み手がいなくなってしまう。


「わたしが読み手をするので、三人一緒に遊んではどうでしょう?」


 莉乃さんのお言葉に甘えて個人戦のルールのもと三人で遊ぶことに。

 細かなルールはさておき、シンプルに絵札一番を多く取った人の勝ち。


「せっかくだし、なにか賭けない?」


 すると夏鈴が妙な提案を持ち掛ける。

 その視線は真っすぐ悠香に向けられていた。


「賭けるって……なにを?」

「勝った方が、りっくんと一緒に午後の作業をできる」


 悠香は話にならないといった様子で首を横に振る。


「じゃんけんで決着がついてるのに乗るわけないでしょ」

「あ、そう。あたしに負けるのが怖いんだ~♪」

「……どういう意味?」

「まぁスタイルの良さも胸の大きさもあたしの圧倒的勝利だし、悠香が勝てるのはじゃんけんくらい。その上、上毛かるたでも負けたら立つ瀬がないもんね~♪」


 瞬間、悠香のこめかみから鈍い音が聞こえたような気がした。

 いやいや……いくらなんでも煽り耐性が低すぎるだろ。


「わかった。そこまで言うなら相手になってあげる」

「ふんっ……受けたことを後悔するといいわ!」


 まるでRPGの戦闘曲でも流れそうな雰囲気で勝負が始まった。

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