第14話 活動初日
そして翌朝、俺たちは再び猫まみれに集まっていた。
みんなジャージに身を包み、マスクと軍手を着けて準備万端。
「作業を始める前に注意点を確認しておこう」
俺は事前に考えておいた内容を三人に伝える。
「まずは押し入れや棚の中にあるものを全て出す。必要な物と不要な物に選別しつつ、残す物はホールのテーブルの上にまとめて、捨てる物は分別。判断に迷う物はみんなで都度確認。貴重品は莉乃さんに判断してもらう感じで進めようと思うけど、どうかな?」
「うん。いいんじゃない?」
夏鈴に続いて悠香と莉乃さんも首を縦に振る。
「じゃあ、次は担当場所を決めよう」
猫まみれは築百年を超える古民家をリフォームして作った喫茶店。
昔は大家族が多かったから古民家といえば大きい家が多いんだけど、猫まみれは比較的コンパクトな造りでリフォームの際に間取りを変えているから部屋数は少なめ。
喫茶店部分のキッチン&ホールの他は座敷と休憩室のみ。
座敷は子供たちが使っていた部屋で、休憩室は名前の通り従業員が休む場所として使っていた部屋だから大きな荷物はなく、負担が大きいのはキッチンだろう。
グラスや食器、調理器具の数が半端じゃない。
「キッチンは食器とか重い物が多いから俺がやるよ。座敷と休憩室は一人ずつ担当するとして、誰か俺と一緒にキッチンの片付けをしてくれると助かるんだけど」
「はーい。あたしがお手伝いする♪」
夏鈴は再会した時みたいに俺に抱き着いてきた。
思いっきり押し付けられる素敵な感触を味わいつつ、いつか菫さんに忠告されたように視線だけは胸元に向けないように気を付けていると。
「ちょっと待って!」
悠香が間に割って入り俺と夏鈴を引き離した。
「こういうのは早い者勝ちじゃなくて公平に決めるべきだと思う」
「どこを担当してもやることは一緒なんだから早い者勝ちでよくない?」
「やることが一緒なら夏鈴が別の場所を担当してもいいってことだよね?」
「うざ……りっくんと一緒に作業したいんだから邪魔しないでよ」
「夏鈴と一緒だと凛久が仕事にならないから断固阻止する」
「はぁ? なんであたしと一緒だと仕事にならないのよ」
「逆に聞くけど、なんで四月なのにそんな薄着なの?」
俺も疑問に思っていたんだけど、悠香の言う通り超薄着。
みんな長袖なのに夏鈴だけ半袖のシャツにショートパンツ姿。
「さすがに露出が高すぎて目に毒っていうか、凛久の気が散るでしょ」
「まったく、これだからお子様は……」
すると夏鈴はやれやれといった様子で溜め息を漏らす。
「男の子はね、女子が薄着なら薄着なほど嬉しいものなの。大変な作業も隣に薄着の女の子がいれば目の保養になって頑張れる。鼻先にニンジンをぶら下げられた馬と一緒。りっくんの作業が捗ることはあっても仕事にならないなんてことはないから!」
「う、嘘でしょ——!?」
疑う悠香をよそに、夏鈴は俺の耳元で『ね……りっくん♪』と蕩けるように囁く。
相変わらず思春期男子的の煩悩に理解があるのは素晴らしいことだけど、悠香が信じるからやめてほしい。
もはや子供の頃の清楚な姿は見る影もなく絶賛行方不明中。
馬と一緒にされるのは複雑だけど間違いじゃないから否定できない。
またまた図星すぎて黙り込む俺を見て悠香はプンスコ状態。
「凛久は夏鈴の言う通り薄着の方が好きなの?」
「えっ! いや、まぁなんていうか……」
俺に限らず健全な男子高校生ならみんな大好きです!
なんて言ったら心の底から軽蔑される未来しか見えない。
返答に困る俺を見て悠香はさらに頬を膨らませる。
「わかった。それなら私も脱ぐ——」
「やめておいたら。どうせあたしには勝てないんだし~♪」
どことは言わないけど悠香との差を見せつけるように夏鈴は胸を張る。
勝ち目のない勝負を前に涙目になっている悠香がちょっと可哀想。
「とにかく、誰が凛久と作業するかは公平に決めるべき!」
夏鈴は溜め息を吐きながら『仕方ないなぁ』と零す。
「じゃんけんでいい?」
「どっちが勝っても恨みっこなしだからね」
意外と平和的に解決しそうでひと安心。
「この場合、俺は参加しなくていいんだよな?」
「わたしも場所に拘りはないので不参加でお願いします」
俺と莉乃さんは辞退して悠香と夏鈴の一騎打ち。
まるで世紀の一戦とでも言わんばかりの気合で対峙する。
昔はここで余ったお菓子を賭けてじゃんけんをしていたのが懐かしい。まさか今になって自分が当時のお菓子みたいな賞品扱いを受けるとは思わなかったけど。
そんなこんなで出す手が決まったのか二人が顔を見合わせる。
「「じゃんけん——ぽん!」」
悠香が出したのはパーで、夏鈴が出したのはグー。
結果、俺と一緒に作業をしてくれるのは悠香に決定。
「やった!」
「そんな……」
無邪気に喜ぶ悠香とショックで膝から崩れ落ちる夏鈴。
少し可哀想だけど勝負は勝負、夏鈴には我慢してもらおう。
俺も視覚的に楽しめないのは残念だけど我慢するからさ。
「では夏鈴さんは座敷を、わたしは休憩室の片付けをしましょう」
「はーい……」
夏鈴はぶつぶつ言いながら座敷へ消えていく。
そんな夏鈴をなだめながら莉乃さんは休憩室へ向かった。




