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第12話 自己紹介のはずが暴露合戦

「みんな集まったな」


 そして迎えた週末、土曜日の午前中。

 俺は悠香と夏鈴、莉乃さんを猫まみれに呼び出していた。

 もちろん理由は猫まみれの再建に向けた話し合いをするため。


 莉乃さんの両親から許可を貰ったものの具体的なことは未定のまま。

 ちなみに夏鈴の腕の中にはあげぱんの姿があり、朝から甘えたい気分なのか一心不乱に夏鈴の胸をふみふみしている……羨ましすぎて来世は猫に生まれたい。

 ちなみに莉乃さんの膝の上にはわたあめもいた。


「じゃあ、さっそく本題に——」

「あっ! その前に自己紹介から始めない?」


 夏鈴は手を上げて閃いたように声を上げる。


「りっくんはあたしたちのこと知ってるけど、あたしたちは莉乃さんのお家で会ったのが初対面。なんとなく察してるけど、先に自己紹介した方がいいと思うんだよね」


 夏鈴の言う通り、三人は猫まみれに通っていた時期がずれていて面識がない。

 悠香と莉乃さんも夏鈴の提案に同意するように頷いていた。


「そうだな。じゃあ、猫まみれに通っていた順で悠香から頼むよ」

「わ、私から? えっと……」


 悠香は軽く咳払いをしてから話し出す。


「酒井悠香です。この春から凛久と同じ花崎高校に通っていてクラスも一緒。猫まみれには小学二年生の夏頃までお世話になってました。その後は他県に引っ越して、中学に上がるタイミングで帰ってきました——って、こんな感じで大丈夫?」

「ああ。ありがとう」


 一人目で緊張していたんだろう。

 悠香は自己紹介を終えると安堵の笑みを浮かべる。


「……りっくんと同じクラス?」


 夏鈴は眉間にしわを寄せながら言葉を漏らした。

 次は見るからに面白くなさそうな顔をしている夏鈴の番。


「一色夏鈴です。猫まみれのお世話になってたのは小学四年生の頃。しばらく他の街で暮らしてたんだけど、花女に合格したから帰ってきた感じでーす」


 端的に済ませるあたりプライベートな話をする気はないんだろう。

 そういえば俺も夏鈴が引っ越した理由は知らない。


「……花女って、花崎女子高校?」


 今度は悠香が眉間にしわを寄せた。


「なによ。なにか言いたそうね」

「夏鈴って頭が良いんだなと思って」

「まぁ人を見かけで判断しないことね♪」


 夏鈴は驚く悠香に得意顔をしてみせる。


「まぁこれも、りっくんと猫まみれで勉強してたおかげかな。あの頃は、いつも一緒に勉強してたよね。また昔みたいに二人きりで勉強したいなぁ……もう高校生だし、保健体育とかどう? 手取り足取り、なんなら腰とり教えてほしいかも♪」

「夏鈴、なにを言って——」


 動揺する俺の右腕にしがみつき上目遣いで見つめてくる。

 残念ながら俺には教えてあげられるような経験はない。


「だから、なんでいちいち凛久に抱き着くの!」


 案の定、わかりやすい挑発に乗ってプンスコ怒る悠香。

 俺と夏鈴を引き剥がそうと俺の左腕をぐいぐい引っ張る。


「私だって凛久と二人きりで遊んでたもん! お散歩する時はいつも手を繋いでくれてたし、お昼を食べる時はおかずを食べさせ合いっこもしてたんだから!」

「それがなによ。あたしなんて——」


 自己紹介のはずが気づけば俺との思い出話で張り合う二人。

 昔好きだった女の子の前で、昔好きだった別の女の子との思い出を暴露される気まずさったらありゃしない。それをまた別の女の子が聞いているからなおさら。

 お願いだから恥ずかしい過去の暴露はやめてくれ!

 そんな二人をとめるべく最後に莉乃さん。


「改めまして、七々咲莉乃です。みなさんより一つ上の学年で、りっちゃんと悠香さんと同じ花崎高校に通っています。この度は猫まみれの再建に協力していただき、ありがとうございます。家族一同、とても嬉しく思っています」


 お辞儀をする所作があまりにも美しくて見惚れた直後だった。


「わたしは……そうですね。よくりっちゃんとハグしていました」

「「ハグしていました!?」」

「ちょ、莉乃さん——!?」


 なにを勘違いしたのか莉乃さんも暴露合戦に緊急参戦。

 まさか莉乃さんまで俺の恥ずかしい過去をぶっこむなんて思わない。


「当時のりっちゃんは甘えん坊で、会うと必ず私の胸に飛び込んできていました。猫を撫でるように優しく頭を撫でられるのが好きで、よくおねだりされてました」

「莉乃さん、お願いだからやめてください!」


 悠香や夏鈴の前では見せたことのない姿を暴露されて顔が熱い。


「俺との思い出を言わなきゃいけないルールじゃありませんから!」

「そうなんですか? てっきり、一人一つはお披露目するものかと」


 マジで穴があったら飛び込みたい。

 羞恥に震える俺を横目にドン引きする悠香と夏鈴。


「さすがに六年生で年上女性の胸に顔を埋めるのは……」

「子供とはいえ、りっくんも男の子ってことだよね……」


 お願いだからそんな目で俺を見ないでくれ!

 ていうか、夏鈴はそのあたり理解があるんじゃないの!?


「まぁまぁ、りっちゃんも甘えたいお年頃だったんでしょう」


 フォローしてくれるのは嬉しいけど、ぶっこんだのも莉乃さんだから少し複雑。

 でも、結果的に悠香と夏鈴はいがみ合うのをやめていた。


 思えば昔から子供が喧嘩すると、こんな風に莉乃さんが仲裁していたっけ。

 穏やかに微笑みながらとんでもない一言をぶっこむことで、驚きのあまり空気が和んで喧嘩がとまる。ちょっと天然な莉乃さんの意図しない場の収め方。

 不思議と周りの空気を穏やかにするような人だった。

 おかげでスムーズに話を進められそう。


「自己紹介も終わったところで本題に入るけど、最終的な目標は喫茶店として再開。当時のように子供たちと猫たちの憩いの場として活動する。その方針でいいよな?」

「うん。いいと思う!」


 悠香に続いて夏鈴と莉乃さんも頷く。


「となると、なにから始めるかだけど——」

「はーい!」


 すると夏鈴が被せ気味に声を上げた。


「とりあえずは片付けじゃない? あたしが一人で片付けてた途中っていうのもあるんだけど、まずは必要な物と不要な物を分けて捨てるところからだと思う」

「夏鈴さんの言う通りだと思います」


 そう答えたのは莉乃さんだった。


「お恥ずかしい話、祖父母が亡くなってから全く手を付けていないんです。家族ですらなにが残っているか把握していないので、整理整頓から始めるのがいいでしょう」

「ある程度片付かないと掃除のしようがないもんね」

「まずは片付け。その後に掃除って感じ?」


 確かに三人の言う通り。


「みんなが提案してくれた通り片付けから始めよう。平日は学校があるから土日のみ。とはいえ、みんなも予定があるだろうし必ず作業できるとは限らない。その後も色々な作業が控えてるのを考えると、夏休み前に入る前は終わらせたいところだな」

「四人もいるんだから、きっと大丈夫だよ」

「わたしも悠香さんの意見に同感です」

「あたしに任せておけば大丈夫♪」


 なんとも頼もしい限り。


「でも、そうなると一つ問題があるな」


 それは今日の話し合いに向けて下調べをしていた時に気づいたこと。


「おそらく相当な量のゴミが出ると思う。家庭のゴミなら収集所に出せるけど、お店から出るゴミは事業ゴミといってクリーンセンターに持ち込まないとダメなんだ」

「りっちゃんの言う通り、種類によっては産業廃棄物扱いになります」


 さすがにクリーンセンターまで徒歩で運ぶのは遠すぎる。

 四人でうんうん唸りながら頭を悩ませていると。


「私が車を出してやろう」


 不意に玄関の方から声が聞こえて振り返る。

 すると壁に寄りかかっている菫さんの姿があった。


「え……もしかして菫さんですか!?」


 夏鈴はびっくりした様子で声を上げる。

 そうか、夏鈴は高校が違うから知らないのか。


「嘘!? なんで菫さんがここにいるんですか?」

「菫さんは俺たちの通う高校で教師をしてるんだよ」

「ほんとに——!?」

「夏鈴と会うのは五年半ぶり、元気にしていたか?」

「はい。また会えて嬉しいです!」


 夏鈴は喜びのあまり菫さんに抱き着く。


「それにしても、ずいぶんな変わりようだな」

「菫さんのアドバイス通り頑張った結果です!」

「だとしても、さすがに変わりすぎだろう」


 ……菫さんのアドバイス通り?


「ていうか、変わりようなら菫さんも負けてませんよ?」


 二人の話はさておき、それは俺も激しく同意。

 また話が長くなるから触れないでほしいけど。


「詳しい話は凛久から聞いている。我が家にある軽トラを出してやるから安心しろ。毎回片付けに付き合うのは無理だが仕分けしておけば暇を見て運んでやろう」


「「「ありがとうございます!」」」


 喜ぶ三人を横目に菫さんに小声で尋ねる。


「手伝ってくれるのは嬉しいんですけど……なにか企んでません?」

「ずいぶんな言い草だな。私とて猫まみれのお世話になった一人。思い出の場所を残したい気持ちは一緒だ。まぁ修羅場を覗き見したい気持ちが一番だがな!」

「やっぱりそれが本音じゃないですか!」


 菫さんの悪趣味はさておき、おかげでゴミ出しの問題は無事解決。

 こうして役者は揃い、翌日から猫まみれ再建計画が動き出した。

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